第四十四夜

暗い山道をハイビームで照らしながら車を走らせる。

席がお開きになってから車内で酒が抜けるのを待つうちについ眠ってしまい、日付も変わった頃合いである。今更急いで帰っても細君のお叱りは変わらなかろうから、努めて安全運転を心掛け、ゆるゆると坂を登り、ゆるゆると坂を下る。

と、ハイビームの中に二つ、黄色い光がこちらを振り返ったかと思うと、反射的にブレーキ・ペダルを踏むと同時にこちらへ飛び掛かる。車が静止下のはドンと柔らかく重い感触がした後だった。

ダッシュボードの抽斗から懐中電灯を取り出しながら記憶の中の映像を精査して、狸を轢いたのだと理解する。

あちらからぶつかってきたとは言え、可哀想なことをした。朝になったら線香の一つでも上げてやり、花の一輪でも供えてやるとして、今は死体を埋めてやろう。

トランクを開けて車を降り、スコップを取り出す。懐中電灯で辺りのアスファルトを照らして見回すが、狸の死体は見当たらない。車体の脇に腹這いになって下を覗き込んでも無い。轢いてから大した距離を進んだ覚えはないのだが、二十メートル、三十メートルと後方までくまなく照らして戻っても、狸の姿はどこにもない。

確かに轢いた感触はあったと頭の中で考えながら、車に戻って車体を照らしてみる。が、凹みもなければ血の跡もない。精々が羽虫の潰れ乾いてこびり付いているくらいできれいなものだ。

首を捻りながら、運転席に戻る。
――酒が残っていたか、うっかり居眠りして夢でも見たか……。
そう思うことにして車を出すと、ギィと一声鵺が鳴いた。

そんな夢を見た。