第八百五十三夜

 
 トレイに載せたカップ二つを窓際の少女達へ運ぶと、
「ね、凄いの凄いの!今度こそ凄いの!」
と聞こえてきた。
 私のバイト先であるこの店は大手チェーンに比べて値段が安く、彼女達のような学生服姿の客も少なくない。雇われ店長曰く、ビルのオーナが趣味と税金対策で経営しているそうで、商品は安く時給は高い。
 縦に四等分されたキゥイ・フルーツに桜色の生クリームを絡めてスプーンで掬いながら、
「それ、毎度聞いてる気がするんだけども」
とベリーショートの少女が眉根を寄せてからスプーンを頬張る。
「いやいやいや、今度ばかりは凄いのよ。何しろ都市伝説の裏が取れたんだから!」。
ポニーテイルの少女は桜の花弁を象ったクッキーで、同じく桜色のアイスを掬って口に運ぶ。
 二人共この店の常連で、制服からして店の近くの女子校に通う高校生らしい。週に一度、金曜日の夕方にやってきては、部活で使い果たしたエネルギーを甘味で補給してゆく。たまに見かけない週は定期試験の期間なのだと店長が教えてくれた。店長がそういう趣味なのではない。彼女らはある意味でこの店の名物客で、店長からもバイト仲間からも一目置かれ、休憩中や閉店後の片付けのときなど、しばしば話題になるのである。
「うちの家庭教師の先生がさ、先週の授業のときに、怪談を仕入れてきてくれてさ」
とウェハースを手にするポニーテイルの少女へ、
「え、あんた家庭教師とかいたの?さすがお嬢様」
とベリーショートの少女が目を丸くする。
「いや、食いつくところそこじゃないから」
とポニーテイルの少女がウェハースを左右に振って、
「先生の家の近所の量販店なんだけど、改装工事のときに店員さん達が『エレベータに幽霊が出る。乗っていると押していない階のボタンが勝手に押される』って話をしてたんだって」
と言うと、
「まあ、なんかよくある話よね。エレベータなんて機械なんだし、そういう機能とか不具合とかあってもおかしくないし」
とベリーショートの少女は冷めた反応を返す。
「ところがどっこい」
と、春仕様の桜パフェをつつきながら、
「事故物件のまとめられてるサイトって知ってる?」
「え、そんなのあるの?」
「うん。で、授業の終わった後でそのサイトを探してみたら、本当にそのお店でエレベータの死亡事故があったって乗っててね」
「ああなるほど。実際に亡くなった人がいるところに噂話があるとなると、ちょっと信憑性は増すわね」
と桃色の白玉を口に入れる。
「ただなんというかね……」
自分のパフェを既に片付けたポニーテイルの少女は珈琲を一口飲み、
「裏で本当に人が亡くなっている話できゃあきゃあ盛り上がるのはちょっと違うというか、根も葉も無い噂話の方が気軽に楽しめるなって」
と、珈琲カップを両手で覆いながら苦そうな顔をしてみせた。
 そんな夢を見た。

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