第七百九十二夜
朝日の焼け付く小さなベランダへ洗濯物を干し終わり、気温の上がりきる前に買い出しへ出ようと着替えを始めたところへ、大学時代の後輩から電話が掛かってきた。
在学中から何故かなつかれて、卒業後も半年に一回くらいのペースで連絡が来て、タイミングが合えば軽く酒を飲んだりする関係が続いている。今日はどうしたと尋ねると、
「先輩、昔っからオカルト方面に詳しかったッスよね?」
と、彼にしてはやや暗い調子で切り出し、お祓いをしてくれるオススメの神社か何かを知らないかと尋ねてくる。
母が世紀末頃のオカルトブーム、ホラーブームの頃の漫画を好んだ影響で、自分も嫌いではないものの、精々ネットでその手の話題を扱うページを読む程度で、特別詳しいというわけではない。無論、拝み屋の類の知り合いなどいるわけもない。
そう説明した上で、何か妙な悩みでもあるのかと尋ねてみる。上下に姉妹がいて女性との距離感が近く扱いも上手い彼は、何かと勘違いされてストーカ気質の女性にまとわりつかれることが多い。それで大学時代に二度、霊現象まがいの事件に遭ったことがある。
「それが、なんというか質の悪い生霊に憑かれてるみたいで」
と言う彼に、大学時代に病は気からと近所の神社へお祓いに連れて行ったことを思い出す。嫌がらせをしていた女性を説得しても彼のノイローゼが治らず、メンタル面が片付くのではと連れて行ったのだった。
「質が悪いって、恨まれるような覚えがあるのか?」
と尋ねると、
「そんなことは無いスけど、生霊を飛ばすようなヒトに理屈は通じないスよ」
と返され、妙に納得してしまう。
具体的にどんな被害に遭っているのかと水を向けると、
「ここのところ目茶苦茶暑いじゃないですか。だから冷房を弱めに、付けっぱなしにして寝るんですけど、深夜二時とか三時とかになると暑くて目が覚めて、いつの間にか冷房が切れてるんですよ。きっと熱中症でオレを殺すつもりなんスよ」
と、妙に現実的かつ遠回しに命を奪おうとする生霊被害を訴えるので、
「タイマーが設定されてるか、そうでなければ違法無線の影響じゃないかね?」
と苦笑しながら答えてやった。
そんな夢を見た。
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