第七百九十三夜

 
 週末の家事仕事を一通り片付けた土曜、まだ暗く成りきらぬ夕方の終わり際から、配信サービスの映画を観ながら簡単なツマミで酒を飲んでいた。と不意に視界の隅がちらつく。暫く様子をうかがうに、眺める画面や部屋の証明の故障ではないようだ。
 集中が途切れた。映画を一時停止し、用を足しに便所へ行くと、灯り取り兼換気用の小窓の外が光るとともに、数秒遅れて腹に響く重低音が轟く。夕立の雷だった。
 音が聞こえるということは大分雷雲の近づいている証拠だと聞く。不要な家具のプラグをコンセントから抜くべきだろうか、直ぐ近くに落ちるようなことは無かろうと高を括って、このまま映画に戻ろうか。
 悩みながら部屋へ戻ると、それと同時に視界が白く染まる。音から数えて三秒を数えて音が届く。一キロメートルほど離れている計算だ。
 先ほどよりは近付いてきただろうか。もう少しこちらへ来るまで、と結論してソファに腰を下ろす。と同時にベランダの手摺に雨の当たる音が聞こえ始め、かと思えば間をおかずにバタバタと窓ガラスを叩く音に変わる。
 余りの急変に窓を見やると、半開きのブラインドの隙間に違和感を覚える。が、特に何があるわけでも無い。確かに、誰かと意図せず目が合ったときのような気不味さを味わった気がしたのだが、気の所為だったろうか。
 ベランダに何か片付けておいたほうがいいものを置いてはいなかったか。それを確かめようとベランダに近付くと、再び窓外が青白く閃いて、窓の向こうにべったりと張り付いてこちらを見上げるずぶ濡れの女の姿を照らし出す。
 腰を抜かして思わず後退り、テーブルに足を当てて尻餅を搗きそうになる。壁に手を突いて堪え、再び窓に目を向けると、そこに女の姿はない。酒が回って幻覚でもみたろうか。ますます酷くなる雨音を聞きながらブラインドを閉じ、今日はもう窓を気にせず過ごそうと決意してグラスに口を付けた。
 そんな夢を見た。

No responses yet

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

最近の投稿
アーカイブ