第八百三十九夜
成人式、と今は言わなくなったのだったか、とにかく同世代の若者が集まる公的なイベントの日、バイトに入ったカラオケ店は入れ代わり立ち代わりで客が途切れることがなく、フードメニューの一部が底をつくほどだった。
漸く二十二時を回るころに落ち着いて、埋まっているのは三部屋のみとなった。受付をバイト仲間の女の子に任せて各部屋の清掃をしていると、用具を持って部屋を出たタイミングでちょうど伝票を手にしたお客様がやって来て入れ違いに部屋に入る。
小柄で童顔の可愛らしい女性、というよりは中学生くらいの女の子だった。ただ午後十時を超えて一人で入店できるからには十八未満ではないはずで、単に極端に幼く見えるタイプなのだろう。用具を片付けてカウンタに戻ると、ちょうどその部屋へドリンクを届けた帰りのバイト仲間が戻って来たので、
「ね、あの部屋のお客さん、何歳だった?」
と尋ねると、
「え、するわけないでしょ」
と目を大きく見開いて、何を分けのわからないことを言っているのか理解しかねるといった風に眉眉根を寄せる。その反応を意外に思い、
「いや、どう見ても中学生くらいに見えなかった?」
と尋ねてみる。女性視点だとあのような外見でも容易に十八以上だと見抜くことができるとか、何か自分の知らないコツのようなものでもあるのかと思ってのことだ。
が、彼女の答えは、
「いやいや、あんな見るからにくたびれた休日出勤のサラリーマンなおっちゃんが中学生なわけないでしょう」
と、とっておきの冗談でも披露されたかのようにケラケラと笑う。
そんなまさかと部屋の前まで行くと部屋からは野太い男の歌声が聞こえ、磨りガラスの向こうには確かに不健康そうな小太りの中年男性らしきシルエットが見えるのだった。
そんな夢を見た。
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