第八百四十夜
一月も半ばを過ぎ冷え込みがきつくなってきたためだろうか、近所の爺さんが亡くなった。小さな町の酒屋――今はコンビニエンス・ストア担っているが――の主人で、息子とは幼馴染で長いこと腐れ縁が続いている。
数珠や喪服を何処に仕舞っただろうか、箪笥の抽斗をいくつも引っ掻き回していると、その内の一つに香典袋が見つかった。そうそう、これも必要だ。
必要なものは机にまとめておこうとビニル袋に入ったそれを手に取り一枚を取り出す。と、手触りに違和感を覚える。
開いてみると中に奇数枚の一万円札が入っている。これは何かと記憶を辿るが、どうにも覚えがない。お稽古ごとから戻ってきた母にそれを見せると、秋口にあった葬式のために件のコンビニで買ってきて一枚を使い、それ以来はずっと触れていないはずだという。
大方、そのとき金を入れて準備したものを忘れて、他の袋を使いでもしたのだろう。そう思いながら金の入った袋を机へ置き、三枚入りと書かれたビニル袋を箪笥の抽斗へ戻しながら残りの枚数を数えると、しかしそこには二枚残っていて、秋口で使ったとすればどうにも計算が合わない。
そう告げると母は、
「あら、減らない香典袋だなんて、ありがたいじゃない」
と、忙しそうに身支度をする片手間に返事をするばかりだった。
そんな夢を見た。
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