第八百三十七夜

 
 七草粥も食べてぼちぼち正月気分も抜けた頃、在宅ワークで凝り固まった肩をコタツの座椅子で回していると、息子が小学校から帰ってきた。一足先に帰ってきて私の隣で早速出された宿題を解いていた娘がびくりと肩を震わせたかと思うと私の体に隠れるようにして、
「お兄ちゃん、また?」
と呆れ声を出す。
 その声に立ち止まった息子の顔を見て、
「またなのか?」
とのんびり問う私に、しかし彼は、
「いや、そんな事を言われても……」
と困り顔で返し、取り敢えず荷物を置いてくるからと再び子供部屋へ歩きだす。すると娘は鉛筆を放りだし、
「ちょっと待って、手提げだけ貸して」
と彼の水筒やらが入った布製の手提げ鞄を受取ると、玄関を出てゆく。
 息子はその後姿を見送った後、私の顔を見詰めて肩をひょいと竦め、そのまま子供部屋に荷物を置きに行き、再び戻ってきて洗面所で手を洗い、戻ってきてお八つを要求する。
 こたつの上の八朔に果物ナイフを入れて皮を剥き、二人で黙々と食べているうちに娘が戻ってきて、
「はい、もう大丈夫」
と娘が手提げ鞄を誇らしげに突き出す。息子はそちらを見向きもせず部屋に置いてきてくれと言い、娘も口を尖らせつつそれに応じる。に戻ってきてコタツへ入ろうとするところを手を洗うように促すと素直に応じて洗面所へ行き、戻って来ると一仕事終えたと言わんばかりにフウと長い溜息を吐く。息子はその労苦を労うように、丁寧に甘皮を剥いた八朔の一房を娘に差し出す。
「今日は何だったの?」
と彼が尋ねると、娘は差し出された八朔を満面の笑みで頬張りながら、
「なんかね、片目の飛び出たおじさんの生首。ちょんまげしてた」
と答える。
 娘曰く、息子は家の中に幽霊の類を持って返ってくる性質があり、それが子供部屋に居着いて困るのだそうだ。今日は珍しくそれを未然に防げたパターンということらしいが、あいにくと我が家でそういったものが見えるのは彼女だけなので、他の家族は皆そういうものかと頷くしかないのだった。
 そんな夢を見た。

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