第八百三十四夜
実家に着いて荷物を置くなり、娘がリュックサックからシロクマのぬいぐるみを取り出して母に差し出す。つい先日のクリスマス会のプレゼント交換で貰ったものらしいのだが、
「中から人間の毛みたいなものがはみ出してきて気持ち悪いから、ちょっと中を見てみてほしいの」
と、言葉足らずの娘に代わって説明する。
それを聞くと母は、
「あんた、誰に似たんだか不器用だからねぇ」
と一人頷いて居間にぬいぐるみを持って行き、テーブルの上においてあったメモと財布を寄越しながら、
「この子に詰める脱脂綿もお願いね」
と、年末年始の買い物を頼まれる。娘についてくるかと尋ねると彼女はぬいぐるみを見ていたいと主張するが、母がわざとらしく眉を曲げ、連れて行くように促す。
美味しいクレープ屋さんがあるからと餌で釣って出掛け、二時間ほどで買い物を終えて帰宅する。と、居間からドライヤの音がする。
買ってきたものを冷蔵庫に詰めてから話を聞くと、
「何が詰まっていたかは聞かないほうがいい」
と険しい顔でへろへろの皮だけになったしろくまを顔の前に広げ、とにかく不潔だったから洗濯・消毒の上乾燥させていたという。
彼女は替えの脱脂綿を受け取ると四肢と頭に詰め込み、娘に好みの手触りを尋ねて触らせながら綿の量を調節し、娘が納得すると器用な手つきであっという間に縫い上げる。
「はい」
と渡されたしろくまを受け取ると娘はその背中、ちょうど母の縫った辺りをじっと見詰め、
「凄い、縫い目が全然わかんない」
と喜び、母と満足気にハイタッチをした。
そんな夢を見た。
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