第四百六十五夜

 
疫病騒ぎの運動不足解消にと冬頃始めた早朝のジョギングを、気温の上がり人の増える前にと日の出に合わせていたのだが、もう夏至も間近とあって四時には目覚ましを止めて支度をしなければならなくなった。

雨の強い日は休むことにしているが、今朝は幸い晴れていた。昨晩の雨で湿度の高い空気が肌に纏わりつくのを不快に思いつつ、所々濡れたままの瀝青を蹴ってジョギング・コースのある近所の公園へ向かう。

一周八百メートルほどの公園をゆっくりと二周し、一角のアスレチック設備にある背の高い鉄棒へ懸垂をしに近付くと、鉄棒の下に泥に濁った水溜まりが出来ている。それを踏まぬように鉄棒に飛びつき、肩甲骨辺りの筋肉でどうにか五回身体を持ち上げ、足元の水溜りを踏まぬよう脚を広げて鉄棒から手を放す。

と、右足の辺りからパキリと嫌な音がした。脚の骨の何処かに無理な負荷が掛かったかと一瞬焦るが、どうも違う。身体の中で発した音は、身体を伝う振動でそれとわかるが、今の音にはその振動が無かった。

何か踏んだかと身を屈めて足元を覗くと、右足が滑って尻餅を搗きそうになり、慌てて鉄棒の支柱を掴む。どうにか尻を水溜りに漬けずに済んだと安堵しながら右足を見ると、水溜りの浅くなった端にヒビが入っている。

まさかと思って指で突いてみるとひやりと冷たく、摘めば厚さ一ミリほどではあるが、確かに氷が張っていた。着地の衝撃で割れて音を立てたらしい。この季節、この気温でどうして水溜りに氷の張るものか。ドライアイスでも使えば悪戯として出来そうではあるかもしれないが、この辺りにそんなものを扱う飲食店があったろうか。そんなことを考えながら、知り合いに見せてやろうと氷を写真に収めるべくポケットのスマート・フォンを取り出すが、それを構えるより早く体温に解けきって、ただ指が泥水に濡れているばかりであった。

そんな夢を見た。

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