第四百五十六夜

 

仕事帰りに読み終えた本の返却に図書館へ寄ることにした。最寄り駅で列車を降り、春の嵐の名残りで風の強い中を買い物し、その荷物を提げて市の施設へ向かう。

渡り廊下で接続された大きな建物郡はそれぞれ市役所、児童館、図書館、公民館で、この時間は図書館と公民館しか開いていない。駅から近い入口で開いているものは公民館のもので、そこから入って隣の図書館の建物へ渡り廊下を進むと、駐車場と建物との間の花壇に満開の躑躅が見える。
ほとんど人の居なくなった図書館の受付で本を返却し、次に借りる本を物
色しようかと奥へ歩き出した途端、閉館した筈の児童館から金切り声の悲鳴が上がり、思わずそちらを振り返る。

まだ残っていた職員に何かあったのだろうか。別の建物からも、首に名札を下げた職員や施設の利用者が野次馬にやってきて、緊張した面持ちで互いの顔を見合ったり、不安気な視線を児童館へ続く渡り廊下の方を見遣ったりと落ち着かない。

ややあって、何処かの施設の責任者と思しき年配の男性がそれより幾分かは若そうな男性を従えて、児童館の様子を見に行くことに決まったらしく進み出る。が、彼等の足は図書館の受付から三歩と歩まぬうちに止まり、続いて渡り廊下から吹き込む風が獣のような強い匂いを運んで来る。

イノシシでも入り込んだかと恐る恐る人集りの後ろからそちらを覗き込むと、素足にボロを纏い、痩せて筋肉質の女が歩いてきて、そのまま図書館の玄関から出て行く。

先程先陣を切ろうとした二人が慌てて後を追い、「居ない」、「馬鹿な」、「何処へ消えた」と騒ぐ声がして、野次馬がざわめく。

そこへ、児童館の方からまだ三十路くらいと思われる女性がやってきて、大丈夫かと問う別の職員へ、あれは自分が小学生の頃に林間学校で神隠しに遭った子だと名乗ったと、震えた掠れ声で訴えた。

そんな夢を見た。

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