第四百五十五夜

 

大型連休の終わり際、彼女に何処へも出掛けられていないと文句を言われた。疫病騒ぎももう丸一年、ストレスが溜まっているのだろう。

とは言えわざわざ人混みへ入って病気を貰いに出掛けるのも馬鹿馬鹿しい。話し合いの結果、人の少ない深夜から昼過ぎまでドライブに出掛けることにした。サービス・エリア等でも出来るだけ人混みは避けること確認し、帰宅予定時間から逆算して目的地だけ決めてカー・ナビゲーションに指定してレンタル屋の駐車場を出る。

暫く使っていなかったが、高速道路の入口まで二十分ほどだったろうか。記憶を頼りにハンドルを切ると、ナビから「ルートを外れました。再計算します」の声が上がる。不審に思いつつも案内に従って走っていると、踏切に捕まったところで助手席の彼女も、
「ねえ、可怪しくない?」
と言い出す。

そうなのだ。この線路を跨ぐのは二度目である。よほど曲がりくねった路線ならそんなこともあるかも知れないが、明らかに可怪しい。車を借りた店と高速入り口とは線路を挟んで反対側にあるから、これからもう一度、踏切を渡らねばならないことになる。つまり、明らかに遠回りをさせられている。

まあ、カーナビなど昔からこういうものと二人で苦笑しながら、予定より二十分遅れで高速に乗る。と、途端に速度制限が出されている。何があったかと思う間もなく回転灯が見え、その向こうに十台近くも続く事故車両、清掃・救助作業にあたる人々の脇を徐行して抜ける。

なかなか幸先の悪い出だしだと独り言のように呟くと、助手席の彼女はペット・ボトルの水を胸の前で握りしめながら、
「カーナビがポンコツでなかったら、あの事故に巻き込まれていたのかも」
と言ってその蓋を開けて水を飲んだ。

そんな夢を見た。

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