第五百六十七夜

 

同棲中の彼女が派遣先を辞めたいと相談してきた。半年ほど前に紹介された小さな旅行代理店で、前社長が亡くなった後にその夫人が後を継いだタイミングで人手が足りなくなったという。

前社長の業務を夫人が継ぎ、夫人の業務を偉い人が、その偉い人の業務を……と替えの利かない部分以外でトコロテン式に役職が交代し、空いた事務に彼女が採用されたのだそうだが、従業員は十名ほどしかおらず、夫人を筆頭に皆大らかで人付き合いの苦もない。

事務は二人で、概ね二週間交代で事務所の仕事とツアー企画側の仕事とを教えて貰える。仕事とは言えタダで各地の名所を回って宿に泊まれるのだからこんなに楽しい仕事も無い。旅行好きの彼女はそう言って大いに喜んでいたのだが、どんな心境の変化があったのか。

そう尋ねると彼女は眉根を寄せて夫人が怖いと答える。おおらかな人柄ではなかったのかと重ねて問うと、
「性格の問題じゃなくて、何と言うか……」
と口籠る。

それでも彼女の語った内容を纏めると、この数ヶ月間、月に一度は人が死ぬのだという。

パッケージ・ツアが貰い事故で死者を出し、企業用の保険が下りる。パッケージの提案先と提携していた競合他社の担当者が急死して仕事が回ってくる。そういう類の偶然、つまり社外の誰かの不幸で自社に利益がもたらされるような偶然が相次いで、どんどん会社に金が入ってくる。出入りの業者との雑談でも、流石に露骨な表現は避けつつその「運の良さ」を指摘されることがしばしばだと言う。
「本人はすごくいい人なんだけれど、他人の運を吸い取ってるみたいで、その矛先がいつかこちらに向かうかも……」。
そう思うと気が休まらぬのだと彼女は顔を伏せた。

そんな夢を見た。

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