第八百十六夜

 

 取引先でのミーティングを終えて荷物を片付け始めたとき、ふと先日抱いた疑問が頭を過った。
 それは今日のミーティングの日時を決めるべく電子メールを送り、その返事が届いたときのことだった。「この日は何時から何時まで、または何時以後終業まで」のように列挙された面談可能な時刻は虫食い穴のように細かく、中には一日中不可の文字さえあって、先方の忙しさが伺えた。
 自分のスケジュールと照らし合わせながら、ふと気付く。そうして列挙された中に、来週の月曜だけはそもそも項目として挙げられてすらいない。土日と同じ扱いだ。念の為にカレンダーを確認してみても、祝祭日や振替休日というわけでもない。
 ひとまずお互いに都合の良い日時を指定する返事を書き今日に至ったわけだが、ちょっとした好奇心から、
「月曜は、何か貴社の記念日だったのですか?」
と資料を鞄に収めながら尋ねてみる。彼は芽を丸くして「どうしてそんなことを」と尋ねるので、
「祝祭日でもないのに月曜が休みのようなメールをいただので」
と答えると、
「そうでしたか、失礼しました」
と苦笑した彼は一段声を落とし、
「実は、『命日』だったんですよ」
と唇の前に人差し指を立てる。
 曰く、この会社に限らず同じビルに入っているすべての事務所が、この前の月曜日の日付を毎年休業日にしているのだという。オーナーの意向でその日にはこの建物に誰も入ってはいけないという条件での賃貸契約が結ばれているそうだ。不動産屋にその理由を尋ねると、彼も詳しいことは知らないが、オーナーはその日を「命日」と言い、立ち入ると必ず良くないことが起きるからと契約に盛り込むよう約束させられたのだと答えたそうだ。
「命日というなら、誰かここで亡くなっているんですかね」
と尋ねる。そこそこ大きな建物だから、長い間事務所用に使われているうちに急病で亡くなる方くらいいても不思議ではない。
「それが、不動産屋に聞く限り、特にそういう話も特には無いようなんですよね。又聞きですけれど」
と、彼も首を捻るのだった。
 そんな夢を見た。

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