第七百五十五夜

 

「うーん、こんなことってあるんですね」
と思わず独りごちたのを、男性社員がどうかしたのかと拾ってくれた。折角気にかけてくれたのなら、店の締めの作業の傍らの雑談がてらにと、昼に売られてきた高級腕時計を覚えているかと尋ねてみる。

 彼も作業の手を止めず、ブランド名を答えるので、
「その時、シリアル・ナンバを検索に掛るじゃないですか。そうしたら、半年前に家で買われていたものだったんです」
と返すと、
「ああ、あれね。そりゃあ、呪いの腕時計だもの」
と言う。
 初めて聞く言葉をそのままオウム返しすると、
「あれ?知らない?」
と意外そうな声を上げ、その曰くについて淡々と教えてくれた。

 あのシリアル・ナンバの時計がウチにやってくるのは、二度目や三度目のことではないという。言われて検索してみると、確かに他店舗を含めてこの二十年ほどに十五、六件の売買記録がある。買い取りの期間はバラバラだが、買い取れば一ヶ月以内には買われて行き、或いは間を置いて、或いはほどなく戻って来ている。
「実際には、買われて二ヶ月と保たずに売られていると思うよ」
と彼が言う。ウチで買ったからといってウチへ売りに来るとは限らないから、確かにそれはそうだろう。
「うちにある間、深夜の店舗で云々って話も聞いたことがあるし、買って腕につけていたらもっと色々とあるんだろう。具体的にどうかはわからないけれど、多分そういうことなんだろうね」
と語る彼へ、
「店の方で、お祓いとかそういうことはしないんですか?」
と尋ねると、
「そりゃ、持っていたいなら売りに来る前に試すだろうけどさ。それでもずっと売られては買われているわけで、やっても利かないんじゃないのかな。こっちとしては、ウチにしたって同業者にしたって、短期で利益を出してくれるものを、わざわざ人に頼んでお祓いなんて損をするだけだし、そんな義理もないもの」
と、彼は作業で凝った肩をぐるぐると回した。

 そんな夢を見た。

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