第七百十二夜

 

ハロウィンの晩、普段よりは早く帰宅した夫を黒いとんがり帽子とマントとで仮装した娘が出迎えると、彼は手に持った洋菓子の箱を笑顔で娘に渡した。帰り際に何かしら買ってくるように言ったのを、珍しく忘れなかったようだ。

娘と夕食の準備の仕上げをし、部屋で着替えを済ませた彼を迎えて食事を始めると、どうも彼の様子がおかしい。心ここにあらずといった様子で、こういうときは大抵、何か仕事の事を考えている。

夕食の片付けを彼に任せている間に娘を風呂に入れて寝かせ付け、二人で残ったワインを飲みながら、仕事で何かあったのかと尋ねると、
「ハロウィンだからってわけじゃないんだけれど」
と苦笑いをする。

ここ暫く、警備用の監視カメラの画像をリアルタイムで解析して、何かの役に立つサービスが作れないものかというプロジェクトに関わっているそうだ。その中の一つに、部屋への出入りの人数・歩容をカウント・解析し、任意の時間が経過しても部屋から出てこない人間があれば警告するというシステム案があって、今日は実際の監視カメラの映像を使ってその試験をしたという。

要するに、長くどこかの部屋に籠もっている不審者とか、体調不良で倒れた人がいるとかを、警備員がモニタに張り付いていなくてもチェックできるというわけだ。
「それで、プログラムが上手く動かなかったの?」
と尋ねると、
「いや、それがよく分からなくてね。トイレ前の映像で試験をしたんだけれど、直ぐに入ったきり出てこないってアラートが出てね。警備員が行ってみても特に不審者は見つからなかったんだ」。

映像を見返してみると、パンツ・スーツ姿の女性が一人、中へ入ったきり出てくる様子が映っていない。
「どのフロアに尋ねても、誰かが行方不明だなんて話は無くて、結局あれは何だったんだろうなぁ」
と、彼はワイン臭い溜め息を吐いた。

そんな夢を見た。

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