第七百一夜

 

早朝の取材のため、前日のうちに車で現地入りして宿をとった。

宿といっても露天風呂の楽しめるような高級旅館ではないが、それでも近くの漁港で獲れたての海の幸は絶品で、同行した部下と二人して地酒の一升瓶を空けてしまった。

時計の針が十時を回った頃、明日に備えてそろそろ寝ようということになり、スマート・フォンの目覚ましを午前三時にセットして布団に入ると、酒の手伝いもあってかすぐさま寝付いてしまった。

そのまま朝まで、といっても午前三時だが、目覚ましが鳴るまでしっかりと寝て、その鳴動で目を覚ました。アラームを止めて身を起こすと多少酒が残っている感がある。水でも飲もうと布団を出ると、既に身支度を整えた後輩が、
「おはようございます」
とこちらを振り向く。
「馬鹿に早いな。それとも、俺のイビキで眠れなかったか?」
と尋ねる。自分で確認したことはないが、特に酒を飲むとそうなるとよく言われるのだ。

しかし彼は首を振り、
「一時間位前なんですけど、変な夢で起こされまして」
と苦笑して一つ大きな欠伸をする。

どんな夢かと尋ねると、見知らぬ老人が現れて、
「ホレ、そろそろ起きんと仕事に間に合わなくなるぞ。はよ起き」
とがなり立てて彼を起こしたのだそうだ。

祖父母とか親戚だとかが夢枕に立ってくれたのかと尋ねてみると、本当に見知らぬ顔で、心当たりがないという。ふと嫌な予感がしてその風貌を覚えているかと問うと、もう一時間も前の夢の中でのことだからと自信なさげながらも、薄い白髪を短く刈り込んで、妙に肩幅の広く腕の太い、日に焼けた老爺だったという。やはりと言うべきか、十年ほど前に他界した父がちょうどそんな容姿で、
「すまん、それ、うちの親父かもしれん。昔からせっかちで時間にやかましかったんだが、そのくせおっちょこちょいでな」
と謝罪する。
「おっちょこちょいで、息子の隣に寝ていたこっちの夢枕に立ったってことですか?」
と笑う彼に、
「いや、うちの親父ならやりかねん」
と、こちらも懐かしさ混じりに苦笑した。

そんな夢を見た。