第六百七十九夜

 

陽が暮れてなお蒸し暑い中を帰宅し、郵便受けの中身を確認してゾッとした。チラシの類に紛れて一枚、見覚えのある葉書が見えたのだ。

昼の熱気を蓄えて蒸し暑い部屋に入り、荷物を置いて冷房を掛けてから件の葉書を検める。裏面には模様なのか文字なのか判別のつかぬ奇妙な図柄が一面に描かれている。

上京したばかりだった昨年のちょうど今頃に一枚、似たような図柄の葉書を受け取ったことがあったのだ。その文面といっていいものか、図柄が全体として同じものなのかどうかに自信はないが、それでもひと目見て同じ質の記号のように感じられたのは、それが文字として規則性をもって並んでいるからなのかもしれない。

表を見れば差出人は書かれておらず、宛名はやや拙い毛筆で私の住所と氏名とが書かれてある。これは以前と同じだったろうかと暫く記憶を辿ってみる。その葉書と比べられればいいのだが、実はもう手元にない。

大学の前期試験を終えて迎えた夏休みにサークルの合宿先で例によって怪談大会となった際、特にこれといった怪談話を持ち合わせていなかったため、一人暮らし怖い、東京怖いというネタのつもりでその葉書の話をしたことがあった。

その時は周囲の先輩の気遣いもあって無事それなりに盛り上がり、実際その葉書を写真に撮ってメッセンジャ・アプリで共有する約束をして終わった。ところが、後期の授業が始まってしばらくして、
「その葉書、もしいらなかったら譲ってくれ」
という人が現れた。サークルを掛け持ちしている人から巡り巡ってその人に話と写真とが伝わったらしい。

こちらとしては一方的に送られてきた差出人不明の葉書であって、別に懸賞付きでもないし、模様はなんだか気味が悪いしで、身近に置いておきたい理由もない。宛名部分だけ黒塗りにして判読不能にする条件付きで譲ることにした。

翌日待ち合わせた相手に葉書を手渡す際、こんなものを手に入れてどうするのかが気になって尋ねると、
「これを集めるとね、幸せになれるらしいの」
と満足気に笑う顔が思い出され、また背筋が冷たくなった。

そんな夢を見た。