第六百六十七夜

 

学食で友人達と集まって昼食を摂り、次の授業まで時間のある者数人が残って世間話をしていると、
「日曜日、バイト先で変なことがあって……」
とそのうちの一人が言い出した。

彼女は大学入学後ほどなく、高校時代の友人のご両親が経営する喫茶店兼洋菓子店にアルバイトとして雇ってもらい、お菓子作りを教わりながらウェイトレスとして働いているそうだ。

店は彼女の家から私鉄で数駅離れた友人宅の最寄り駅のアーケード街に間借りしていて彼女の友人が幼い頃――つまり我々皆が幼い頃に開店して以来、結構繁盛しているらしい。

ただ、「へんなこと」があったのはその店ではなかった。その日の夕方、彼女がバイトを終えて着替えを済ませたところへ、二件隣の中華料理屋の奥さんがやって来た。夕食時を迎えてお客が予想外に多く来て、一人だけ雇っているバイト君は出前に出てしまっている。手が足りないというほどではないが、三十分だけ電話番をお願いできないかという。

それくらいならと家に連絡を入れて中華屋に入り、エプロンと三角巾だけ借りて電話番兼フロア担当の真似事を始めると、数分して店の電話が鳴った。

厨房で旦那さんと並んで調理に忙しい奥さんに代わり喜び勇んで電話に出ると、低くくぐもった男の声で何やら聞き取りにくいが出前の注文らしく、炒飯と餃子とを二人前ずつ頼み、住所と名前を言うのでそれをメモに走り書きし、店が混雑していて少し遅くなるかもしれないと詫びている途中で電話が切れる。せっかちな人も居るものだ。

奥さんの手が空くのを見計らって出前の注文のあったことを報告すると、彼女は少しだけ顔をしかめて、
「うん、分かった。ありがとう」
と言って、注文の内容も聞かずに調理に戻る。

不思議に思いながら店の手伝いを続けていると出前に出ていたというバイト君が戻って来た。互いに手が空いたタイミングで先程の出前の注文の話をしてみると、
「ああ、炒飯と餃子二人前の人でしょ?住所をメモってたら、ネットの地図を検索してみるといいよ」
と言うので言われるがままに調べてみると、線路沿いにアパートや一軒家の並ぶ中にぽつんと広がる空き地が示された。写真の撮影日は三年前となっている。
「そこ、元は一軒家だったんだけど、十年くらい前に殺人事件があってそれ以来ずっと更地らしいんだけど、その頃からずっと、月に一度くらいそこへ同じものを頼む電話が入るんだって。悪戯にしても気が長いと言うか執念深いと言うか、気味が悪いよね」
と彼は、先程の奥さんと同じように顔を小さくしかめて見せた。

そんな夢を見た。