第四百九十八夜

 

提出課題を終えたご褒美にアイスでも買おうかと近所のコンビニエンス・ストアへ向かうと、既に町は薄紫色に包まれていた。秋分を過ぎてすっかり陽の落ちるのが早くなったものだ。

コンビニの中で包装を破り、柔らかなチューブからアイスを吸いながら、コオロギの鳴く薄暗い住宅街をゆっくりと歩いて帰る。

自室の前に着きアイスのチューブを咥えたまま鍵を回すと、違和感がある。何の抵抗もないのだ。

確かに鍵は掛けたはずと思いながらノブを回して扉を引くと、やはり鍵は開いていた。

土間に足を踏み入れるとセンサ式の電灯が点き、居間への扉も流しの下の扉も開け放たれ、中身が散乱しているのが照らし出される。

一目見て泥棒だと直感し、慌てて共用廊下へ飛び出して鍵を締める。買い物に出て十分も経っていないので、まだ中に犯人がいるかも知れない。

扉に背を押し付けながら、スマート・フォンで一一〇番を掛ける。通報というもの自体が初めてでもあり、泥棒に侵入された非常事態ということもあってしどろもどろだったが、電話口の相手は毎日こういう通報を相手にしているのだろう、優しい声で情報を聞き出しながら、落ち着くよう宥めてくれる。

階下に住む大家に報せるべきか、しかしこの扉から離れてもいいものか、こんなことなら大家の電話番号をスマートフォンの電話帳に登録しておけばよかった。そんな事を考えているうちに大家を従えた制服警官がやってきて、部屋に犯人がいるかを検める許可を求められる。是非とお願いすると数人の警官が部屋に突入し、直ぐに中へ案内される。結局犯人は既にそこには居なかったそうだ。

暫く大家の部屋で休ませてもらった後、鑑識の方々と一緒に部屋に入って被害状況の確認をすると、下着泥棒の類らしい。
「最後に――」
と、鑑識課の長らしき中年の男性が眉を掻きながら、
「家の中では手袋をして過ごしていらっしゃるとか、ノブや取っ手を拭く癖があったりはしませんか?」
と唸るように尋ねる。家で常に手袋をしているような人がいるのかと驚くと、
「手タレ、というんですか、手だけのモデルさんっていらっしゃるんですよ。綺麗な手の方はCMなんかで需要があって、傷を付けたり肌荒れを起こしたりすると仕事にならないからという人もいらっしゃるそうで」
と教えてくれる。

こちらは特に保護するほどの手も持ってなければ、潔癖症でもないので、そういうことはない。そう答えると彼は眉を寄せてその横を掻き、
「カーペットに足跡もあるし、貴女と違う何者かの同じ指紋、つまり犯人なんだろうモノも出てるんですけどね……。貴女が帰ってきて開け締めしたという玄関ドアの内外のノブ以外、どこにも貴女の指紋が見当たらんのです」
と首を撚った。
「犯人があちこちの指紋を綺麗に拭き取ってから、自分の指紋を残したとしか見えないんですが、そんな馬鹿なことがねぇ……」。

そんな夢を見た。