第三百九十二夜

 

冷たい風の吹くようになった帰宅途中、住宅街にあるコンビニエンス・ストアへ立ち寄って週刊誌と晩酌のツマミを籠に入れてレジスタへ向かうと、中学の同級生が立っていた。

ここは元々酒屋の持ちビルで、彼女はその娘だ。昔はソフトボール部で逞しい体付きだったように記憶しているが、筋肉が落ちて小さくなったか、こちらが高校時代に大きくなったか、昔よりも華奢になったように見える。

会計を終えて鞄からエコ・バッグを取り出し、他に客も並んでいなかったので、商品を詰めながら少しばかり言葉を交わす。

自分で選んで就職した先が疫病騒ぎであれこれあって職を辞し、一時的に家業の方で働くことにしたという。彼女の親にしてみれば店の人員の出入りも少なくなり、娘が勤務先でウィルスをもらってくる心配も減るということで、親の元で働くことに抵抗のあった彼女を随分と熱心に説得したのだそうだ。

私は同級生の店ということもあってしばしばこの店を利用しているから、
「次の働き口が決まるまでは、偶に顔を合わせるかもね」
と言って荷物を肩に提げると、
「そう、同級生とか昔の先輩後輩が来ると気不味いってのも、嫌だった理由なのよね」
と彼女は、苦笑いし、有難うございましたと営業スマイルで定型文を口にする。

手を振って店を後にして、澄んだ空気を街灯が貫いて、乾いたアスファルトを照らす中を歩きながら中学の同級生をあれこれ思い出すうち、妙なことを思い出す。

大学に入ってしばらくした頃、仲の良かった友人から電話が来たのだ。要約すると、
「酒屋の娘と偶然同じ大学の同じ学部に通っているのだが、死んだとご両親から連絡があった。浮気した彼氏への当て付けで手首を切ったらしい。自殺は親族の恥だから、葬儀は内々で済ますので、小中学校の同級生には連絡しないと言っている」
というような内容だったはずだ。

実際、連絡網も何も連絡はなかったから、この友人の言葉が本当かどうか確証はないのだが、人の生き死にを捏造して彼に何の得があるでもなからろうと、そのときは頭から信じてしまっていた。

しかしこうして実際に元気な本人に出会ってしまうと、まさか彼女の幽霊が実家の店で働いてる訳でもあるまいし、友人が妙な嘘を吐いたということになる。

背後に何があったのか、彼女に尋ねるのも下衆に感じるが、友人に確認するのは気味が悪い。

一刻も早く家に帰り、唐揚げをツマミに酒を飲んで忘れることにして、冷たい風の吹く家路を急ぐことにした。

そんな夢を見た