第二百九十五夜

 

娘の出し物が終わると、次の種目まですっかり暇になってしまった。妻は一度自宅に戻って昼食の弁当の準備をするからと言って帰宅し、手伝おうかと提案したものの、普段から碌に料理をしてこなかった実績によって即座に断られたからだ。

特に目標も無くなると、手にしたカメラで何か暇潰しでも出来ないかと考え、学校の敷地内の木々の紅葉した姿でも撮影して回ろうかと思い立つ。

校舎の玄関側、今正に運動会の行われている運動場を囲む生け垣をぐるりと廻ると、どれも桜ばかりである。二昔前に自分が通った学校もそんな様子だっただろうか、草木に興味を持つような高尚な趣味を持たない洟垂れ小僧だったから、学校の生け垣などすっかり記憶に無い。

そのままぐるりと校舎裏へ回り込むと、こちらは背の低い針葉樹が多く並んでいる。教室の大きな窓が歩道の近くに並ぶから、目隠しに常緑樹をということだろうか。
当然のように人気のない校舎裏を歩くと、ちょうど中央辺りに見事な紅葉を見付けて少々嬉しくなる。

そのままゆっくりと歩いて校舎の脇へ出ると、そこは校門からすぐのところに広がる職員用の駐車場になっていた。その中央辺りに、薪を背負って本を読む二宮金次郎の像が、手にした本の向こう側に校庭を見守るように立っている。
――今時珍しい。

私の通った田舎の学校にさえ無かったものを、敷地の狭いこの学校によく立てたものだ。そんなことを思いながらその脇に並んで立ち、像から校庭を舐めるようにビデオを撮る。

何だか誇らしげな満足感を得てカメラを止めて腕時計を見ると、まだ昼迄はかなり間がある。ああは言われたが、やはり一度帰宅して何か手伝ってやろうという気になった。

校門へ出ようとしたところで、呼び止められ、振り返ると娘がハンド・タオルを手に立っている。トイレに行った帰りだそうで、隣でもじもじと恥ずかしがる友人を紹介してから、
「何をやっていたの?」
と問うので、
「二宮さんの像を撮ってたんだ。父さんの学校には無かったけど、ここでは校庭を見守ってくれてるんだね」
と像を振り返って、その景色に違和感を覚える。
「違うよ、パパ。二宮さんは学問の神様だから、校舎を見守るように置かれてるって、校長先生が言ってたもん」。

娘の言葉通り、像は校庭ではなく、校舎の側面を向き、顔を隠すように本に埋めていた。

そんな夢を見た。