第七百八十五夜

 

 同僚の若い女性教師が、珍しく遅刻ギリギリになって職員室へやってきた。慌ただしく荷物を広げて準備に取り掛かる彼女に何かあったかと尋ねると、
「夜中に目覚ましのアラームが掛かって起こされてしまって」
それでリズムが崩れなかなか寝付かれず、寝坊をしてしまったのだそうだ。
 どうして深夜にアラームが鳴ったのか、特に海外のスポーツを生で見る予定があったわけでもなく、まるで心当たりがないという。アラームを鳴らしたのは屋内用の無線通信に繋いで様々な家電をコントロールできる機器で、知り合いからプレゼントされたものだが、わざわざ対応する家電を揃える気にもならずほとんどただの目覚まし時計としてしか使っていないそうだ。
 毎朝六時にアラームを鳴らしていたのだが、何故か昨日に限って深夜に鳴り出したという。
「それ、ちょうど零時だったりしませんか?」
と同僚の一人が問う。言われてみればそれくらいだったかも知れないが、アラームを止めるのに声を掛けるだけで済むから部屋の明りを点けたわけでもなく、時刻は確認していないのでわからないと言う。続いてアラームは、毎日繰り返しの設定をしているのかと問われ、
「お休みの日だけ除外してセットする方法がわからなくて、、毎晩寝る前に『アラームをオンにして』って声を掛けてます。それで、設定済みの時刻に鳴るようになるので」
と彼女が言うと、尋ねた同僚は、
「一度、盗聴器なんかを調べてもらったほうがいいかも」
と眉を顰める。
 アラームをセットというだけの命令で零時にアラームが鳴ったのなら、あらかじめセットしていた六時の情報が失われていたのだろう。そのデータが消える原因といえば電源の消失だが、昨日この地域で停電があった話は聞かない。留守の間に誰かが部屋に侵入し、コンセントからプラグを抜いた可能性がある。特に若い女性の部屋のコンセントを弄るといえば盗聴器という話をよく聞くから。そう言う彼の言葉を聞くうちに、彼の顰めた眉が彼女にも伝染していた。
 そんな夢を見た。

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