第八十六夜

 

秋の夜道は街灯に照らされてなお足元が暗く、それでも重くダブつくスカートは自転車を飛ばすのには向いていない。ズボンを穿いてくればよかったと後悔する。塾で居残り勉強を命じられ帰宅が遅くなってしまったため、午後十時からのバラエティ番組に間に合うか否かの瀬戸際なのだ。

商店街を抜けて交差点に差し掛かり、普段は直進する角を右へ折れる。
――近道しちゃえ。

この道は三年前まで通っていた小学校の脇を通り、大きな通りに対して斜めに走っているため、家までの道程を大幅に短縮できるのだ。ただ、暗くなってからは人通りも少なく不審者の出ることも少なくないからと、両親からは暗くなってからの通行を禁止されていた。

親は帰りが遅くなることを嫌う。理由が居残りと聞けばなかなか上がらぬ成績についてお叱言が始まって、テレビどころではなくなるだろう。かといって、友達とお喋りをしていて遅くなったというような嘘は、毎週欠かさずその番組を見ている私を知っている両親には通じるはずもない。つまり残された唯一の選択肢は一刻も早く帰宅することだけなのだ。

そんなことを考えながらペダルを漕ぐうち、左手に小学校の校舎が見え始めた。再び大きな通りに合流するまでのちょうど中間地点が小学校で、体力的にはまだ余裕がありそうだ。

暗闇に佇む校舎のちょうど中央辺りに、灯が灯っているのが遠目に見える。この時間まで残業をしている先生がいるのか、それともただの消し忘れか。

近付いてみると、灯はどうやら昇降口の斜め上であることがわかって、にわかに背筋が寒くなる。職員室は一階にあるが、そこは暗い。既に校舎には誰も居ないはずだ。光の漏れる窓は、高さから見て三階、左右の位置から見てトイレ、花子さんの噂のあった女子トイレに間違いない。内装のタイルの反射だろう、近づくにつれ窓から漏れる光がうっすらと桃色であることが確認できるようになる。

花子さんなんて、所詮は小学生の噂話である。仮に花子さんという妖怪のようなものが本当にあの学校に出るのだとして、どうして灯を点ける必要があろうか。たまたま誰かが消し忘れたまま帰ったのだ。

そう思いながらも校舎の脇を通り過ぎると、背後から視線のような気配が首筋に刺さる気がして、左手でスカートを纏めて一目散に大通りを目指した。

そんな夢を見た。