第八百六夜
文化祭終了を告げるアナウンスが流れると、来場客が続々と校門へ向かって移動を始めた。その流れに逆らうように生徒達が各々の教室に戻って来る。ここから僅かな時間で後片付けをしなければならない。担任が点呼を取る声を聞きながら、皆で長い時間を掛けた教室の飾付けを眺める。
途中駆け足で戻って来たクラスメイトも数人いたが、無事全員が揃ったのを確認すると、
「では、教室の片付けは女子、足りない机と椅子を運び入れるのは男子。早めに揃ったらすぐに帰っていいが、だからといって急いで怪我などしないように」
と告げた担任は、しかし教室の扉を引き開けたところで立ち止まり、
「そうそう、一昨日の夜みたいなイタズラは勘弁してくれな。先生、膝が悪いしこう見えてビビリなんだから」
と膝に負担を強いているだろう大きな腹をペチペチと叩く。
一昨日といえば文化祭の前日で、最終下校ギリギリまで皆で残ってあれこれの作業をしていた日だ。何かあったのかと尋ねると、別に犯人探しをするつもりも、犯人を責めるつもりもないがと前置きしてから、
「教室の戸締まりをして職員室に戻ってな、荷物をまとめて帰ろうとしたら、隣の先生が下りてきて、うちのクラスでピアノの音がする、BGM用の音楽が流しっぱなしじゃないかって言うんだ」。
確かに、雰囲気作りのために音楽室のピアノで録音したデータをリスニング用においてあるスピーカで流せるようにしてあった。それを、
「誰か、タイマーでわざと遅い時間に流れるようにしといただろ?誰もいない薄暗い廊下をピアノの聞こえる中歩いて止めに、一人で戻ったんだからな」
と笑って教室を出る。
扉が閉まると皆ワイワイと声を上げ、イタズラの犯人を究明しようとしたが、結局名乗り出るものはいなかった。
そんな夢を見た。
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