第七百六十三夜

 
 大型連休に遊ぶ金も無く、食費を浮かせようと実家へ戻った。そこは今まさにお兄夫婦が生まれて間もない初子を育てている真っ最中で、邪魔者扱いされるかと思いきやこき使える人手として歓迎はされたが、忙しく動いたり夜泣きで眠れなかったりで二日目の朝は疲労感とともに迎えることになった。
 両親も兄夫婦も私も眠い目を擦りながら朝食を摂っていると、
「今日はちょっと、御山に行ってくる」
と宣言し、さっさと食事を済ませて車に乗って出掛けてしまった。
 御山というのは町から十キロメートルほど離れたところにある神社で、小山の上に建っている。小山の形がいかにも人工的で、神社の建つ前から古墳として尊重されていたような話を小学校で習ったことがある。
 朝食の片付けをしながら赤ん坊の世話から逃げた父の悪口を言っていると、赤ん坊が泣き始める。おむつか空腹か、それとも他の原因か。兄が溜息をこらえるような表情で世話をしているところへ義姉が手伝いに行き、ややあってようやく鳴き声が止む。目処の立った食器の片付けを私が引き受け、母が洗濯に取り掛かり、義姉もそちらの手伝いに赤ん坊のもとを離れる。
 洗濯機を回し始めると、それが止まるまでは休憩時間だ。赤ん坊も空気を読んでくれているのか静かに眠っていて、ようやく平和に人心地が付いた。
 少し横になってくると言って義姉が寝室へ上がって行くと、エンジン音がして父が帰ってくる。全く何処へと文句を言いながら出迎える母へ、父は一抱えほどある白い紙袋を押し付けて、
「赤ん坊にこれをやれ」
と言い、自分は洗面所へ手を洗いに行ってしまう。包みを開けた母も、それを見ていた私も流石に目が点になった。白い封筒に包まれていたのは前方後円墳型のぬいぐるみで、トイレから出てきた父曰く、
「形がいいんだか感触がいいんだか、とにかく触らせとくと赤ん坊がおとなしくなるんだと」
と、確かに気持ちの良さそうな前方後円墳の毛並みを満足そうに撫でて見せた。
 そんな夢を見た。

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