第七百四十夜

 

 午後九時を少し過ぎた頃、日課のジョギングで線路沿いの道を走っていたときのこと、踏切の前に停まる列車の最後尾の車両が見えた。車両の立ち往生か、それとも人身事故か。

 住宅街を走る私鉄で、朝夕のラッシュ時には開いている時間のほうが短い開かずの踏切が幾つもある。閉じる時間が長いために無理をして渡るものが絶えないのだろう、中学生の頃からしばしば人身事故の話を聞いていた。祖母に聞く限り自分が生まれる前から高架に付け替えるような話が出ているが、用地買収が上手く行かずに未だに地上を走っているそうだ。

 ただ、今日はラッシュの時間も過ぎているから足元が暗くて起きた事故だろうか。もし人身事故なら余り気分のよいものではない。いつものルートから逸れてどこかの角を曲がってしまおうかと思いながら走っていると、背後から自動車のヘッド・ライトが近付いてくる。線路脇の細道を脇へ避けてやると、黒塗りの高級車が慎重にすり抜けて行き、ちょうど踏切の脇のあたりで停車して、中からスーツ姿の男二人が降りてきて、線路の方へ歩いて行く。

 踏切周辺を照らす街灯の中に見えた彼らが異様だった。ネクタイまでは見えなかったが、まるで喪服のように真っ黒なスーツに、夜中だというのに大ぶりのサングラスをしている。マスクは疫病騒ぎ故に仕方ないにしても、サングラスと相まってまるで人相を隠しているようにしか見えない。

 結局気味の悪さが好奇心に勝ち、踏切の一つ手前の角を曲がってそのまま帰宅する。ちょうど風呂から上がった妹に見てきたものを告げると、彼女は、
「へえ、線路にUFOでも落ちたのかもね」
と笑いながら髪にバスタオルを巻いた。

 そんな夢を見た

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