第七百三十五夜

 

 予約を入れていたお陰で入店するなり準備万端整った居酒屋の座敷で音頭をとらされて乾杯をし、まだ冷たい唇をジョッキに付ける。もう二十数年も前に転校した小学校で特に仲の良かった五人が集まったのは、彼らが同窓会の際に私の名前を出して懐かしみ、連絡を取ってくれたからだった。

 私は父が転勤族で同窓会の誘いは少なく、あっても地理的な遠さからほとんど参加したことがなく、こうして小さな頃を懐かしむというのは新鮮な経験だ。皆料理もそっちのけで昔話を掘り起こす。はじめはよく覚えているものだと感心して聞いていたが、そのうちに細かなことをあれやこれやと思い出してきて自分でも驚く。

 暫くそうして懐かしんだ後、一人が便所へ立って皆の話が一区切り付く。その間をきっかけに、ふと気掛かりに思っていたことを思い出し、
「そういえば、連絡が来たときにさ」
と話を切り出す。

 誘いの手紙の中に参加者として列挙された名前の中に、ある友人の名前がなかったのだ。当時の彼は背が小さくちょこまかとよく動き、それでいてかなりの読書家で、本を読んで情報を仕入れてはよく回る舌でもって私達に面白い話をしてくれたものだった。彼の一番好んだ話題といえば、当時よくテレビでも特番の組まれていたUFO関連だったろうか。

 その彼の名前が無いのが意外でもありまた残念でもあった。
「あいつは都合が付かなかったのか?面白い奴だったよなぁ」
と言うと、途端に皆の表情が強張って、何やらこちらから目を逸らしたり、互いに目配せをしたりと落ち着きがなくなった。ひょっとして不幸でもあったのだろうか。だとしたら余計な藪をつついたものだ。

 謝罪のために口を開こうとしたところへ便所へ立っていた友人が戻ってきて、様子が変なのを察し、どうかしたのかと皆に問う。話題を出した責任を取るつもりで、彼の名前を出したたらこうなったのだと説明すると、友人は肩越しに背後を振り返り、ゆっくりと私の隣に腰を下ろす。そのまま肩を組むと、ほとんど聞き取れないほどの小声でもって、
「あいつはな、忘れろ。誰かが尋ねてきてあいつのことを訊かれても、大昔会ったきり、今日もあいつは来てないどころか、あいつの話もしていないとシラを切れ」
と囁く。
――忘れろ?誰かが尋ねてくる?
唐突な助言に混乱していると、
「メン・イン・ブラック」
と彼はUFOや宇宙人の関係者を尋ねてくる正体不明の黒尽くめの男達というオカルト用語を囁く。そのまま席を立って元の自分の席へ戻り、また元通りの楽しげな表情で昔話を始めたのだった。

 そんな夢を見た。

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