第七百三十二夜

 

 丸二年帰省していなかった実家へ久し振りに帰って三日目、ぼちぼち戻る準備を始めなければと思いながら、何となくテレビで正月番組を眺めている父母と姉と一緒に炬燵に入り、自室にあった懐かしい本を読んで過ごしていた。昨日は朝方に行った初詣でたまたま地元の友人と出くわしたりもしたのだが、仕事柄流行り病を貰う訳にもいかずに誘いを断ったものの、かと言って初詣以外に特にすることもないのだ。

 母が席を立ち、姉がスマート・フォンに通話が来たと言って自室へ戻ったとき、丁度インター・フォンが鳴る。続いて父が無言でこちらを見、そのまま視線をテレビに戻す。やれやれと思いながら炬燵に本を伏せ、インター・フォンと繋がったモニタを確認しに立ち上がる。

 と、若い男がカメラの辺を不安気にきょろきょろと眺めている姿が映っている。カジュアルなコート姿で、仕事でやってきたという風ではない。自分と同じくらいの年齢だろうか。寒いのか少々青ざめたその顔に見覚えがあるかと言われれば、ちょっと思い出せない。成人式からももう十年近くが経っているのだから、中学辺りまでの同級生などそれとわからなくても仕方がなかろう。

 それでも正月二日から家を訪ねてくるのだからそれなりには親しいのだろう。恐る恐る通話ボタンを押し、どちら様かと尋ねると案の定というべきか、小学校の同級生だと言って確かに聞き覚えのある名を名乗る。

 と、部屋から姉が出てきて私の名前を呼ぶ。寒い中を待たせるのも悪いとは思いながら玄関前の彼にはちょっと用事ができたからと待ってもらうように言う。振り返って姉になんの用かと尋ねると、昔よく家に遊びに来ていた姉の友人が、私の仕事の関係の相談に乗って欲しがっていると言う。

 今友人が来たところだから後でと言ってモニタに戻ると、その数十秒で通話状態が切れて画面が切れている。改めて通話ボタンを押して、謝罪の言葉を口に仕掛けると、画面に彼の姿がない。

 何の用だったのだろうかと思いながら炬燵に戻ると、用を足し終えたらしき母が戻ってきていそいそと炬燵に入り、お客さんは誰だったのかと問うので、同級生の名を告げる。もう二十年も前になるが、家にも幾度か遊びに来たことはあったはずだ。と、
「あんた、それイタズラじゃない?」
と眉をひそめる。何のことかと問い返すと、
「あの子、もう一年以上も前に亡くなったんよ。バイクの事故で。病気の騒ぎがあったからって、地元を離れた子らにはわざわざ連絡しなくていいってご両親が仰って、だからあんたには知らせなかったけど」
と、大真面目な顔で言うのだった。

 そんな夢を見た。

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