第七百九夜

 

実験で帰宅の遅くなった夜、人気のなくなって少々気味の悪い構内を抜け、線路沿いを駅に向かっって歩いているとなんだか周囲の様子が普段と違うのに気が付いた。踏切に差し掛かると、そこへ向かう道に車が渋滞の列を作っている。どうやら踏切がずっと開いていないようだ。

その原因は次の踏切に着いてすぐに分かる。赤い回転灯を回す緊急車両が数台停まって、人々が慌ただしく動いている。歩きながら聞こえて来た警官や野次馬の話から想像するに、無理に渡ろうとした自転車が線路に車輪を取られたかで事故にあったようだ。ほどなく駅に付くとそこにも人集りが出来ていて、やはり人身事故で電車が止まっているという話が漏れ聞こえてくる。どうにか掲示板を確認すると自宅方面の便は完全に停まってしまっていて、復旧の見込み時間も不明とされている。これでは帰宅できそうもない。

仕方無しに母へ電話をすると、父が車で迎えに行くから喫茶店でもどこでも安全なところで待っていろという。礼を言って電話を切り、駅前のコンビニエンス・ストアであんまんとホット珈琲を買い、イートインで食べながら父を待つ。

暫くして父から連絡が来てコンビニを出ると、いつの間にか風が冷たくなっており、小雨まで降り始める。小走りに父の車へ駆け寄って窓を叩き、開いた扉へ礼を言いながら乗り込む。
「母さんから雨女まで遺伝したんだなぁ」
と言う父に、母の若い頃の雨女エピソードを聞きながら不意に始まった何年かぶりのドライブを楽しむ。

時折、口を挟んでくるカー・ナビゲーションの指示に従いながら、まるで見知らぬ夜の街道沿いを眺めていると、不意に父が車を停めた。信号機があるわけでも、横断歩道があるわけでもない。

疑問に思っているうちに父は再びアクセルを踏んで車を出す。
「今、どうして停まったの?猫でもいた?」
と尋ねると、父は横目でこちらを見、
「いや、自転車を押してる女の人がいたじゃない。前の車は無視して進んでいたけど、歩行者の横断が優先なんだよ」
と、普段通りの口調で諭すように言うのだが、私はそのような人の姿にはまるで気付いていなかった。

そんな夢を見た。

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