第七百七夜

 

息子の初めての運動会、ハンディ・カムを持って妻と近所の公園へ行った。土地の狭い住宅街の比較的新しい幼稚園故に十分な園庭が無く、駅前の大きな公園を市に借りて行うのだ。

朝から設営を手伝い、息子の姿を撮影し、正午前にはプログラムを終了して、後は後片付けとなった。妻には息子を先に連れて帰るよう頼んで仕事に取り掛かる。

園長の指示で、たまたま息子の担当の先生と同じ作業をすることになった。朝の設営時には挨拶をできなかったため簡単な挨拶を交わして作業に取り掛かろうとしたところで、三々五々散ってゆく子供達の後ろ姿を見て、ちょうど彼女に尋ねたいことがあったのを思い出し。
「あの、なみちゃんだか、まみちゃんだかって、どの子ですか?」
と尋ねてみる。

息子を風呂に入れたときなど、二人きりのとき、しばしば聞くようになった名前だ。滑舌が悪いために「な」なのか「ま」なのかわからないのだが、必ず「お母さんには内緒だけどね」と言ってから、ままごとをしただとか何だとかの報告をする。仲良くしてもらっているのなら親御さんに挨拶でもと思ってのことだ。

ところが彼女は小首を傾げ、細長く「うーん」と唸ってから、
「すみません、そういう名前の子はちょっと心当たりがありません」
と困り顔をする。子供同士の渾名みたいなものでも、似たような響きの子は居ないらしい。何となく気不味くなって、変なことを尋ねて申し訳ないと誤り、片付けの作業に取り掛かる。
その後帰宅すると妻が昼食を準備してくれており、その隙に、
「ねえ、なみちゃんがどの子か、後でビデオで教えてよ」
と息子に耳打ちする。幼稚園の運動会はごく短く、同じ年齢の競技は全て撮影してあるから、来ていたのならビデオでどの子かを確かめることもできようと思ったのだ。

ところが息子は、
「ううん、今日は来てなかった」
と首を振る。後片付けの終わり際、同年代に欠席の子供はいないと確認していたのだが、
「ああ、そう、それは残念だなぁ」
と、不信感が表情に出ないよう祈りながら精一杯おどけて見せた。

そんな夢を見た。

No responses yet

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

最近の投稿
アーカイブ