第六百八十六夜

 

大学時代の友人の結婚式にて、控室で久し振りに会った友人達とお喋りをしていると、そのうちの一人の様子が気になった。お琴やお茶を習っているという彼女は大学生の頃から和装が好きで、機会があれば品良く着こなしていたのだが、今日に限って洋装なのだ。

まあ結婚もしているし、人それぞれ色々と事情もあるだろう。我ながら下らぬ事に気付いてしまったものだと思いながらも、一度気になると落ち着かない。話の途切れたタイミングを見計らい、
「今日はお着物じゃないの?」
と尋ねてみると、
「ああ、それがちょっと妙なことがあって」
と眉を八の字にする。

『困った』ことではなくて『妙な』ことという言葉に違和感を覚えると同時に、他人様の困りごとを詮索するのははしたないが、ただ妙なことというなら失礼には当たるまいと俄然興味がそそられて、ついつい話を促してしまう。

結婚してすぐさま疫病騒ぎが始まったため、なかなかフォーマルな場に呼ばれることがなかった彼女は、今日の式の招待を受けて漸く、既婚者として着られる着物のないことに気が付いたと言う。

義母は和装の趣味がなくて頼れず、かといって滅多に着るものでもない留袖にあまりお金を掛けたくもない。そこでネット・オークションを探すと、ちょうど家紋の合う物が見付かった。デザインも落ち着いていて好みだったが、値段は他の似たようなものの五分の一ほどで、異様に安い。十数枚も掲載された写真を見る限りはケチの付きそうなところは見えなかったが、説明書きの最後に「※曰く付き。返品不可。他言無用。」と書かれていた。
「それでも値段が値段だったから、最悪自分でもオークションに流せばいいかと思って買ったのだけれど……」。
そこまで説明した彼女は急に、膨らませた水風船を手にした悪戯好きの小学生のような表情を見せる。
「他言無用っていう注意書き、変でしょう?どうしよう。結局本当にオークションで売ってしまったのだけれど、その経緯は聞きたい?」
と笑う彼女に、皆口々に気になるけれどと悔しがりつつ誰も仔細を尋ねはしなかった。

そんな夢を見た。