第六百八十四夜

 

焚き火で沸かした湯で珈琲を淹れながら同じ湯で濡らしたタオルで顔を拭いていると、薪を拾いに行っていた友人二人が戻ってきた。両腕には虎ロープで束ねた茶色く枯れた笹や杉の小枝を抱えている。炭に火を点けるには十分な量だろう。

アルミ製の骨組みと強化ビニルの簡易倉庫に薪を仕舞い込む二人に、
「お疲れさん、そろそろ珈琲が入るよ」
と労いの声を掛けると、
「なあ、道なんて何処にあったんだ?」
「そうそう、お社なんて何処にも見当たりませんでしたよ」
と批難めいた返事が返ってくる。

ここは友人の叔父がほったらかしにしているという小さな山だ。最近になって彼のキャンプ趣味のために使わせてもらえるようになったといって、手入れを手伝うことを条件にキャンプを楽しませてもらうことになった。
「うん?この川上の、大きなクスノキの脇だぞ?気付かなかったか?」
と珈琲を注いだマグ・カップを差し出しながら尋ねるが、受け取る二人は揃って首を振る。

そんなはずはない。昨日の薪拾いの際に確かに山道を見付け、その先に小さな祠を見付けたのは確かだ。焚き火を起こしキャンプの拠点にしているこの広場から、脇を流れる川に沿って上っていくと、左手に大きなクスノキがある。その脇に目印のように大きな石があり、両脇から笹の伸びた小道があった。手にしたナタで伸び放題の枝を打ちながら暫く進むと、小さな石組みの上に高さ三十センチほどの祠があり、すっかり泥まみれの猪口のような器が置かれていたのだ。
「昨日持って帰ってきたのが、その周りに落ちていた枯れ枝なんだから」
と主張するが、枯れ枝からその落ちていた場所などわかるはずもなく、当然証拠能力は無い。それでも何の得にもならぬ嘘を吐く理由もなかろうと後輩が言うと、友人はカップから上がる白い湯気を吹き、
「お前だけ、山の神様に招かれて掃除をさせられたってことなのかなぁ」
と珈琲を啜った。

そんな夢を見た。