第六百七十六夜

 

始業時間前に淹れたコーヒーを飲みながらデスクでニュース記事を眺めていると、珍しく遅めにやって来た部下の一人が慌て気味にデスクに着くのが目に入った。

ここのところ顔色が優れなかったこともあり、始業前に少し話を聞いてみようと声を掛ける。と、話が少々長くなるので昼にでもと言う。いざ昼になって社員食堂に並んで座り、
「最近、顔色が優れないようだけれど?」
と話を振ると彼女は、
「はい、そちらは片付いたんですけれど……」
とスマート・フォンを取り出し、一体の西洋人形の写真を見せる。磁器製で、ビスクドールと言うらしい。
「大型連休の頃からか、どうにも寝起きに疲れが取れない日が続いたんです。始めは何が原因なのか分からなかったんですが……」。

疲れが溜まったせいなのか体調もよろしくなくなって来た頃のある日、玄関に置かれていたこの人形が気になった。ちょうど大型連休中に彼女の家にやってきたというその人形の首には真珠を模したプラスチック玉のネックレスが掛かっていたのだが、胸の前に金属製の留め具が光っているのを見付けたのだ。その日より前にどうだったかは覚えていないが、普通留め具は首の後ろに回し、目立たないように飾るだろう。絡まないよう髪の毛を持ち上げながらネックレスを回してやったが数日するとまた元に戻っていて、流石に気味が悪いので、以降はもう触れないことにしたそうだ。

すると今度は人形が夢に出てうなされるようになった。何やら英語ではない外国語でブツブツと話すのだが、残念ながら理解できない。幽霊の正体見たり枯れ尾花、気味悪がっているから妙な夢を見るのだと自分に言い聞かせながら一週間ほど過ごしたが、毎晩人形が夢に出る。遂に我慢できなくなって同居する両親にその人形の処分を訴え、昨日晴れて人形供養の神社へ納めて来たのだという。
「それで、昨日の夢には出てこなくなったの?」
と尋ねると彼女は頷き、
「はい、だからそちらは一安心なんですが、その人形を我が家に持ち込んだ人物が問題で……」
と眉根を寄せる。
「大型連休にやって来たということはひょっとすると」
「はい、父方の親戚の方なんですが、どうも曰く付きだと分かってその人形を家においていったみたいで……」。

財産が、それとも何かの恨みなのか知らないが、そんな人間とこれから何十年と付き合わなければならないと思うと気が滅入るのだと、彼女は大きく溜息を吐いた。

そんな夢を見た。