第六百六十八夜

 

中学の頃の部活の後輩と対戦していたネット・ゲームに一区切りがついた。当時同じカード・ゲームが好きで仲良くなって卒業後もたまに遊んでいた。多少疎遠になった時期もあったが、そのシリーズがネット上でも出来るようになったために、一緒に遊ぶ機会は学生の頃より増えたかもしれない。

簡単に感想戦を終えると、
「先輩、あれ覚えてますか?開かずのテニス部室」
と、懐かしい言葉を彼が出す。

開かずのテニス部室とはその名の通り使用禁止のテニス部室だ。校庭の端、体育館裏の体育倉庫の隣にプレハブ小屋が並んでいて、各女子運動部に専用の更衣室兼荷物置き場となっていた。在学中にその中の一つ、テニス部の部室が使用禁止になった。

なんでも朝練時に忘れ物をした部員が朝のホームルームの後、一時限目の始まる前の僅かな時間に部室に入ったきり行方不明になったのだそうだ。当時は一限目の体育に備えて校庭に二クラス分の男子生徒がいて、体育館脇を駆ける女子の制服姿は嫌でも目立ち、部室に入ったのは間違いがない。

ところが彼女は授業が始まっても一向に教室に戻らず、テニス部員のクラスメイトが様子を見てくるようにと派遣された。彼女が部室へ走る姿もやはり、既に体育の授業を始めていた体育教師が気付いて不審に思っていた。彼女は直ぐに部室から出てきて彼に走り寄り、部室から出てくる者の姿を見なかったかと尋ねる。

事情を聞けば部室は蛻の殻で、周囲の男子生徒たちも入る姿は見たと口々に証言するが出ていくところは誰も見ておらず、教師の方も気付かなかった。直ぐに教頭に連絡をし、監視カメラで校門周辺に人の出入りのないことが確認されると、必ず学校内に居るはずと大捜索騒ぎとなったが、結局彼女は見つからなかったらしい。「らしい」というのは、彼女とは学年も違い直接の接点もなかったために概要さえ同級のテニス部員から聞いたに過ぎなかったからで、当時は朝から何やら騒がしいと思っていただけで、人が行方不明になったという実感もほとんど無かった。

何故そんな話を急に持ち出したかと尋ねると、
「あれ、失くなっちゃうらしいんですよ、今度の夏休み中に。プレハブの老朽化で建て替えだとか」
と、溜め息混じりの後輩の声がボイス・チャット越しに聞こえた。

そんな夢を見た。