第六百五十夜

 

小学校から帰宅した息子が開口一番、パトカーを見た、制服姿の鑑識官もいたと興奮した声を上げた。肩越しに振り返ってうがい手洗いをするように指示し、お八つを用意しながら話を聞く。

彼がパトカーを見たのは川岸の細い道でのことだったという。

家を出て小学校へ向かい坂を下ると、小さな川に掛かる橋に行き着く。川の両岸は自転車がすれ違うのに苦労するほどの細い道になっていて、レンガで綺麗に舗装されている。川に面して玄関を構える商店の類は無く、いわゆる裏道なのだが、時間帯によって通学の子供達、犬の散歩、ジョギングやウォーキングをする人は少なくない。

そのレンガ道の崖側に、十メートルほどの間隔で桜の木が植えられている。そのうちの一本が川の上に迫り出すように斜めに幹を伸ばし、それで根が傾いたのか、それとも傾かぬように大きく育ったのかは分からないが、ともかくレンガを押し上げて道に凹凸を作った。

それだけなら良かったのかもしれないが、凹凸がレンガの目地を埋める漆喰を割ってしまったのが厄介で、こうなると雨が降るたびにそこへ水が流れ込む。するとその水が少しずつ土砂を押し流す。実際、数年前にレンガ道の真ん中に直径一メートルを超える大穴が空いて、しばらく通行止めになったこともあった。それと同じことが桜の根本で起こればどうなるかは想像に難くない。そういうわけで先日、狭い道に重機を入れて桜を伐り出した。
「今日は残った切り株を掘り出す工事だったんだって」
と言う息子に、
「なんでそこに警察が来るんだ?死体でも埋まっていたのか?」
と問うと彼は目を丸くして、
「なんで知っているの?お父さんが埋めたの?」
とあらぬ嫌疑を向けられたのだった。

そんな夢を見た。

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