第六百四十夜
私の通う小学校は創立百周年を超える古いもので、いわゆる学校の七不思議がたくさんある。七つどころか両手両足の指でも足りなくて、もうどれが元々の七不思議なのかわからない。七不思議なのに「たくさんある」だなんておかしい?でも、そのお陰で「七つ目を知ったら呪われる」なんて話もない。だから、安心して私の話を読んでほしい。
夕方、部活動が終わってから宿題のプリントを忘れたことを思い出し、職員室で鍵を借りて教室へ取りに向かう。三階の教室へ、人気のない階段を一段飛ばしに駆け上がっていると、背のランドセルの中で筆箱がカタカタと鳴る。
その音に紛れて、小さく鈴の音が聞こえる。おやと思って立ち止まると辺りはしんと静かになる。一つ段を上がるとチリンと鳴る。二つ上がるとチリンチリン。しかし立ち止まると静まり返る。少々気味が悪いながらも、部活仲間の誰かが後を付けて悪戯をしているのだろうと、そのまま教室まで駆け上がり、無事にプリントを回収して鍵を返しに職員室へ戻る。が、それまで誰ともすれ違わない。悪戯なら適当なところでネタをバラさなければ楽しくなかろうに。
担任へ鍵を返却しながらそんなことを言うと、先生は赤ペンの尻でこめかみを掻きながら、
「そう言えば、そんな話を聞いたことがあったなぁ」
と、中央階段の鈴の音が七不思議の一つだったと教えてくれる。彼も小学生の頃にはこの学校に通っていたのだが、その頃からあった怪談なのだそうだ。
「君が聞いたということは、本当にそういう音がすることがあるんだなぁ」
と感慨深げに呟く先生に、何か謂れ、つまり鈴の音がするようになったきっかけになるような事件や事故の話は伝わってないのかと尋ねてみるが、特にそういう話を聞いたことはないそうだ。ただ、
「放課後に図書室の一番奥、窓際の席に座って本を読んでいると鈴の音が聞こえるって話があるんだよね。これも特に由来みたいなものは聞いたことがないのだけれど、何か関係はあるのかもね」
と言ってから、気を付けて帰るようにと職員室を追い出された。
そんな夢を見た。
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