第六百二十九夜
リサイクル・ショップを経営している友人に新年会だと呼ばれ、閉店前の店へ呼ばれた。蛍の光の流れる店内に入ると既に人気はなく、友人がレジで一人締めの作業をしている。他の連中は未到着のようだ。
声を掛けて歩み寄ると彼もこちらに小さく手を挙げて応え、
「新年早々待たせてしまって済まない」
と口元に手を当てる。反対の手にはスマート・フォンを片手にネットでニュースを見ており、既に締めの作業は終わっているらしい。
仕事が終わっているのなら何を油を売って人を待たせているのかと口を尖らせる私に、彼は顔を上げぬまま店の一角を指で示す。指の先には一竿の白い洋箪笥があり、その前に黒いコートの女性が立っている。店の入口からは背の高い家具の死角になって気が付かなかったが、まだ店内に客が残っていたようだ。
もう閉店時刻は過ぎているだろうに追い出せないのが客商売の辛いところと慰めの言葉を口にすると、彼は小さく首を振る。
「あの客な、あのタンスの元野持ち主なんだが……」
と、視線を伏せたまま小声で言う。
あの白い洋箪笥が店に並ぶのは既に四度目なのだそうだ。店に並べば一ヶ月もせずに売れるのだが、定まって一週間ほどで引き取ってくれと言われて戻ってくる。客は異音がするとか異臭がするとかのクレームを付けてくるのだが、店に置いている限りではそんな様子は全くない。ただ、
「清掃と修繕をして――といっても一週間程度で戻ってくるから殆ど何にもしないんだけど――まあ店に置くとさ、毎日毎日閉店間際にあの女が来てじっとあのタンスを見るのよ」
と彼はちらりと箪笥の方を見て、
「『お帰り』とか何とかぶつくさ言って、気味が悪いったらないんでね」
と呟く。
この距離でその言葉が耳に入ったとは思えないが、女は踵を返して家具の死角を通って店外へ出て行った。
そんな夢を見た。
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