第五百五十二夜

 

校庭から体育館、プールの順に回り、最後に部室棟を案内してもらい、運動部の部活案内は解散となった。文化部の案内は明日、体験入部は明後日からの予定で、私を含む新入生五十人は帰宅のために各自の荷物を置いた教室へと戻っていく。

校舎の昇降口に大渋滞が出来ているのを見て、ふとトイレに行きたくなる。下駄箱付近を抜けるのに大した時間は掛からないだろうが、その後一年生のフロアのトイレが混雑するだろうことは想像に難くない。そこでくるりと踵を返し、部室棟へと戻る。運動部員なら着替えにしか使わない。既に運動部が練習を始めているこの時間には部室棟の中には特別な設備の不要な幾つかの文化部員しか居ないはずで、つまりトイレの塞がっている可能性は低かろう。

尿意に加速された思考力でそれだけ考えて、先程渡された案内図を見ながらトイレを探すと、階段の脇に暗い入り口が見える。その手前に置かれた足拭きマットまで歩を進めると、センサが反応して中の電灯が点く。匂いも汚れもないきれいなトイレだが、なにか空気が重い。長期の帰省から久し振りに実家に帰ってきたときのそれを思い出させるような、長期間その中で動くものがなかった気配だ。

薄気味悪さを感じつつも尿意に背中を押されて個室に入り用を足すと、少々寒気がして軽く身震いがする。

そそくさと身支度を整えて洗面台に手を差し出すと、これもやはりセンサ式で自動で水が出る。それと同時に、首筋に冷たいものが触れる。冷房から吹き出る風のように冷たく、しかしそれとは異なりじっとりと湿ったような重い感触が、制服を無視して首から肩、肩から背中へと降りて来る。

大急ぎでその場を離れ、ハンド・タオルで手を拭きながら急ぎ足で部室棟の入り口へ向かうと、
「あなた、そこのトイレに入ったの?」
という声が上から降ってきた。

振り向くと階段を降りてくる上級生が驚いたような顔で駆け寄ってきて、
「あそこ、何だか妙な噂があって、誰も使わないの。三年くらい前に建てられたばっかりで、変な事件があったような話は聞かないんだけれど、何だか雰囲気が怖いでしょう?兎に角、近寄らないほうがいいよ」
と忠告してくれた。

そんな夢を見た。