第五百四十八夜

 

モニタと、その脇のブックス・タンドに置いた書類とを見比べながらキィを叩きつつ、ふと傍らに置いたマグカップを眺めると既に珈琲が底を突いていた。

切りの好いところまで終わったら一休みすることにしようと思いながらキィを叩き続けるが、一度集中が切れてしまうと不思議なもので、先程までまるで気にならなかった肩凝りが妙に気になって、軽い頭痛までしてきたような気になる。

軽く首や腰を捻ってストレッチをする。目に入る背後のデスクは、真後ろもその隣も空席で、左隣も机一つおきにしかスタッフが座っていない。それというのも、夜の飲食や観光関係の仕事に再開の目処がたった影響で、一時的にここで働いていたスタッフ達がごっそりと元の業種に戻ったからだという。急激に人手が減り、そのためにこうして何時にない長時間の残業をしているのである。ただ、以前より見晴らしの好い窓際の席から眺める夜桜は中々に美しい。

そのままどうにか一区切り付くところまで作業を終え、両拳を天井へ突き上げるように伸びをしながら立ち上がる。と同時に何かがさっと尻を撫でる。思わず短い悲鳴を上げつつ、その感触から逃れるように身体を捻ったため、デスクに軽く腰をぶつける。マグの飲み物が入っていたら、きっと溢していただろう。

犯人の姿を捉えるべく振り返ると、しかしそこには誰もいない。

長時間座っていて血流が悪くなった尻が軽く痺れたために、人の手に撫でられたような錯覚でも起こしたのかもしれない。

そう納得することにしてマグを手に給湯室へ向かうと上司に呼び止められる。何かあったかと尋ねるので勘違いだろうけれどと事情を説明すると、
「うーん、前にあの席に座っていた子も同じことを言っていたんだよね。気になるようなら空いている席に移っていいから」
と、眉を八の字にして言うのだった。

そんな夢を見た。