第五百夜十八

 

疫病騒ぎが落ち着いて、遂にとあるバンドの生ライブが行われることになった。

是非一緒に見に行こうと、同性の友人へ連絡を入れて返事を待ちながら、まだチケットも取れるかどうかわからないのに、浮かれた気分で当日の服装を悩み始める。

友人というのは大学の語学の授業で仲良くなった女の子で、落ち着いた服装からは想像できなかったが、一緒に学食で昼食を摂っては無駄話をする内に、同好の士だと判明した。一緒にライブに行けるといいねと言っている内に疫病騒ぎで自粛が始まり、この度ようやく念願が叶うというわけだ。

と、そう思っていたのは私だけだったらしい。暫くして帰ってきた返事には、はっきりと断りの文句が記されていた。
理由を問うと、余り他人に言いたくはないのだがと前置きして、
「ブラックライトが苦手なの」
と返ってきた。

どういうことかと重ねて問うと、ややあって長文の返事が帰ってくる。

中学生の頃、科学クラブに所属していたのだが、その活動の中にブラック・ライトを様々な蛍光物質に照射して、その様子を観察する実験があった。

蜂蜜が水色、ビタミンB2を含んだ飴が黄緑色、校庭のカラタチの葉を温めたエタノールに漬けて抽出した葉緑素は赤色に、それぞれ不思議な輝きを見せた。

そこまでは楽しくも知的な経験だったのだが、彼女の指の爪にブラック・ライトが当たると異変が起きた。葉緑素のそれに似た、赤い蛍光を示したのだ。

溶液が指に付着しているのだろうと顧問が彼女の手を洗わせ、再度照らしてみてもやはり赤く光る。それも何故か彼女の爪だけだ。

彼女を「葉緑体女」とからった男子生徒は幸いにして良識ある顧問からきつく叱られ、彼女の体質が噂話になることもなかったが、それ以来、ブラック・ライトには可能な限り近寄らずに過ごしたいと思うようになったのだという。

そんな夢を見た。