第五百夜

 

酒類の提供が解禁され、友人と久し振りに共通の好物である沖縄料理を食べに出掛けた。

自宅でレシピを真似ても何故か再現出来なかった懐かしいあれこれの風味に舌鼓を打つうち、まだ夜も浅いのにラスト・オーダを告げられて店を出る。提供自体の自粛要請は終了したものの、提供時刻には制限があるらしい。

とはいえ酒を飲む人間には、酒を入れ、面と向かってでなければ話せない話もあるものだ。互いにその手の人間同士、職場でワクチン接種済みである気安さもあって、直ぐに電車で三駅ほどの友人宅で飲み直すことに決まる。

まだ確かな足取りで電車に乗り、駅前の量販店で酒とツマミとを仕入れて彼女の部屋にお邪魔すると下駄箱の上に消毒用アルコールのスプレイ・ボトルが置いてあり、買ってきたものを消毒してから小宴会の続きとなった。

ネット配信の映画を流しながら暫く談笑していると、不意に彼女が用を足しに席を立つ。

手持ち無沙汰に部屋を眺める。急に友人を招くだけあって綺麗に片付き、また掃除されている。飾り気がないというわけでもなく、壁に掛けられたコルクボードには何かの写真が留められていたり、テレビ台の左右には熊と鮫のぬいぐるみが置かれていたりもする。

感心してながめていると横手で居間の扉が開き、部屋の主が便所から戻って来る。振り向いて「お帰りなさい」と言おうとして初めて、その扉の上、普通なら時計でも飾ってありそうなところに藁人形が飾られているのに気が付いて、思わず顔が引き攣る。

こちらの表情と視線とで察したか、
「これ、凄いでしょう?手作りなの」
と、ちょっと背伸びをして藁人形を手に取り、その右手を指で摘んでひらひらと降って見せる。私の反応が芳しくないのを見て取ると、彼女は壁から突き出た二本のフックで腋を支えるように人形を戻し、
「誰かを呪ってるとかじゃなくて、私の身代わりになってくれるタイプだから、心配しないで」
と笑う。

昔から身体の弱かった彼女の母がそれこそ藁をも縋る思いで頼った拝み屋に言われ、彼女の髪の毛を入れた藁人形を作って寝室に飾るようになった。不思議なことにそれ以来病に伏せることが失くなって今でも続けている。

彼女はハッカの香りのするビールにレモンを絞りながらそんな説明をしてくれた後、
「お陰様で変な虫も好い虫も寄り付かないんだけれどね」
と笑うのだった。

そんな夢を見た。