第四百九十五夜

 

組み上がったPCに古いハードディスクを接続して起動すると、認識は無事成功した。依頼主の部下に内容を確認するように言うと、彼女は礼の言葉と共にカップ入りアイスを出して労ってくれる。

椅子を交代してアイスを舐めながら、日付で名前付けされたフォルダ群をチェックする彼女の方を極力見ないように努めるが、手持ち無沙汰についついそちらに目が行ってしまう。そんなこちらの落ち着かない様子に気付いたか、
「特に見られて困る写真も無いので、気を遣わなくて大丈夫です」
と此方を振り返って笑う。

どんな写真を撮るのかと問うと、散歩中に目にする草木と野良猫、あるいは同じく散歩中の犬が主で、人物を撮るのは学生時代の友人達と旅行に出たときに頼まれた場合くらいだと答える。写真趣味はその頃、当時交際していた男性の影響で始めたそうだ。

今回壊れたPCもその当時に購入したもので、先日突然うんともすんとも言わなくなった。どうも近所に落雷のあった影響らしい。古いものなので買い替えるのに吝かではないが、これまでハードディスクに溜め込んだデータだけは惜しい。カメラや画像加工なら得意だが、PCのことには詳しくない。

それで白羽の矢が立って彼女のワンルームに招かれたのが私で、現在無事にお礼のアイスを堪能させてもらっている。

少々腹が冷えたか尿意を覚え、近所にコンビニか公園が無いかを尋ねる。彼女も此方の意図を察したか、トイレなら遠慮せず使って良いと言うのでお言葉に甘え、ぴたりと揃えられたアザラシ型のスリッパを履いて用を足し、元の通りに揃えて戸を締める。

意外に几帳面な性格らしいと玄関を眺めると、そこに脱がれた彼女のパンプスは勿論、私のスニーカまで、スリッパ同様ぴたりと揃えられていた。自慢ではないが私は育ちも良くなく性格もズボラであり、此方にお邪魔した際にも当然靴を揃えてなどいない。

部屋に戻って非礼を詫びると、
「あ、それ、私じゃないんです」
と彼女は眉尻を下げて顔の横に垂れた髪を耳に掻き上げる。玄関からキッチンと風呂、トイレに挟まれた廊下の突き当りに居間のあるこのワンルームには、私と彼女の他には誰もいない。少なくとも私はその気配すら感じておらず、
「え、誰か居たの?」
と頓狂な声を上げると、
「いえ、誰かというか、お化けというか……」
と、彼女は胸の前に両手を持ち上げ、だらりと下げて揺らしてみせる。
「また冗談を」
と笑う私に、しかし彼女は大真面目で、
「特に害があるわけじゃなくて、靴やスリッパが揃ってたり、冷蔵庫の中が片付いてたり、あと、取り込んだままの洗濯物が畳まれてたりするんで、結構便利なんです」
と自慢気に胸を張った。

そんな夢を見た。

No responses yet

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

最近の投稿
アーカイブ