第四百九十三夜

 

疫病騒ぎで減った運動量と反比例して増える体重に、久々に夜のジョギングを再開しようと、きつくなったジャージと運動靴とを発掘して、爽やかな風の吹くようになった夜道へ出た。

学生時代に拡張した胃袋は運動を止めたからと言って縮まるものではなく、就職して直ぐに太り始め、暫くはジョギングを続けていた。

準備運動がてら大股で東へ歩いて川の土手を目指す。土手は陸上競技のトラックのように柔らかく舗装されていて、老若男女そこをジョギングする者は少なくなかった。

川沿いに暫く南下すると堤の下に防災公園と呼ばれる大きな公園があり、堤を挟んで反対側に、テニス・コートなら四面分くらいの四角いコンクリート製の広場が川の中に突き出している。何の目的で作られたものかとんと見当が付かないが、クーラ・ボックスを傍らに竿を垂らしている人もしばしば見かけたものだった。

堤の上を四十分ほど走り、公園でストレッチをしながら息を整えてから住宅地を歩いて帰るのが常だった。

それを止めてしまったのは、数年前のとある事件への奇妙な後ろめたさ故だった。

胸の悪くなるその事件の詳細は控えるが、その川面に突き出した広場が凶行の舞台となった。台風の翌日で濁ったその川に釣り人はなく、台風の片付けを頼まれて疲れ切っていた私もジョギングをすっぽかしていた。
――自分がいれば凶行は防げたかもしれない。
皆がそう思ったかどうかはわからないが、以来釣り人もジョギングやウォーキングをする人はすっかり減り、反対に肝試しだのなんだのと夜遊びをする悪ガキ共が増え、途端にガラが悪くなった。体格だけが取り柄の私がそんな連中に何を思う訳でもないが、そこを走る度に、
――あの日、サボりさえしなければ
と、根拠のない罪悪感を覚えるので、暫くして走るのを止めてしまった。

あれからもう二年になるだろうか。堤の上を走りながら、ずっとそんなことが思い出される。とても爽やかな気分とは言い難い。
公園に差し掛かると、広場へ下りる階段にフェンスが敷かれ、何やら看板が取り付けられている。スマート・フォンのライトで照らすと、区が新たな施設を作る工事を始めている旨が書かれている。

悪化した治安への対策か、治水か何か災害への対応か、或いはその両方か。

いずれにしても広場に手が入るのだなと理解した頭を、川面へ吹く秋の夜風が冷たく撫でた。

そんな夢を見た。