第四百五十八夜
「珍しい物が手に入ったから見せたい」。
そんなメッセージで友人に呼び出されて学食のテラス席へ向かうと、とうに食事を終えた友人二人が荷物を置いた席を挟んで談笑しているところだった。一人は私を呼び出した者で、もう一人は私と同じく「珍しい物」を見せると言って呼び出されたが、まだ見せられていないと言う。
このご時世、席の距離を確保するために利用可能な座席が少なく、学食にも利用者にも迷惑にならぬよう近くの公園にでも場所を移してから本題に入ろうというので、彼女らが食器を下げるのを待ってからだらだらと歩きながら公園へ向かう。どうにか空きのベンチが見つかってそこへ三人並んで腰を下ろすと、二人を呼び出した友人はいよいよ、
「では……」
とリュックを膝に乗せ、ひみつ道具でも取り出すような効果音を口ずさみながらその中から何かを取り出す。
ごく普通の、五百ミリリットル入りのペットボトルで、中身は空だ。これの何が珍しいのかと当然の疑問を口にする二人に彼女が黙ってそれを軽く振ると、それに合わせて硬い音が響く。何か入っているらしい。
ボトルの底を指差しながら目の上の高さまで彼女が持ち上げて漸く、それが十円玉だったことがわかる。二人して、それの一体何が珍しいのかと問うと、それなら十円玉を取り出してみろと言う。
ボトルを受け取った友人がキャップを外して逆様に振ってみると、不思議なことに十円玉は出てこない。もしやと思い財布から十円玉を取り出して、ボトルの口にあてがってみると、確かにほんの僅かだけ十円玉の方が径が大きく、水平にしても斜めにしても、どう足掻いても十円玉は入らない。入らないからには取り出せないはずであり、そもそも今こうして入っている事自体が有り得ない。何処かに切れ込みや溶かした痕でもあるのかと、友人と二人で目を皿のようにして探してみるが、それらしいものは見つからない。
どうやって入れたのかと尋ねてみると、家の玄関の前に置かれていた物だという。ゴミかと思って手に取ると十円玉が入っており、お金を捨てるのも気が咎めて取り出そうとしてみて、そもそも入らないことに気が付いたのだそうだ。
「捨てるだけならカッターか何かで切ってしまえばいいんだけれど、折角だから摂っておこうかと思うのよね」
と彼女は満足気に笑った。
そんな夢を見た。
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