第四百十四夜

 

不意のトラブルに対処するために帰宅が遅れ、久し振りに最終間近の電車で最寄り駅へ到着した。

軽食を摂る暇もなく、クリームと砂糖を入れた珈琲で誤魔化していた腹に何を入れるか考えながら、すっかり人出の無くなった駅前を歩くと、いよいよ冬らしい冷たく尖った風が肌に刺さる。

橋の袂近くの交差点に差し掛かると、通りが急に明るくなる。駅前から住宅街への入り口にあたるこの交差点は、四つの角にそれぞれ異なる会社のコンビニエンス・ストアが睨み合う激戦区なのだ。

特に理由があるではないが、手前の角の店へ入ると、店番の男の「いらっしゃいませ」の声が響く。このところ自炊の暇が出来たお陰でご無沙汰だった味の濃いジャンクフードと酒が目に入り、久し振りに食指がそそられてそれらを籠に投入する。

いざレジスターへと向かうと、入店を知らせるチャイムが鳴る。音に釣られてそちらを見ると、背の高い棚の向こうに、動く気配もなく閉じたままの自動ドアが見え、振り向きざまにちらりと見えた店員も「いらっしゃいませ」の声を上げない。

不審に思いつつもレジへ向かおうと向き直ると、棚の陰から赤いパンプスを履いた、半透明の膝から下がカツカツと歩いて来て、レジ近くの壁際に設けられたホット・ドリンクの棚の前で立ち止まり、そう思うや否や湯気や煙の散るようにすっと消える。
「見えましたか?」
と問うレジの店員へ籠を渡すと、彼は愛想の良い笑みを浮かべ、
「お客さんは運がいいですよ。アレ、この交差点の店をぐるぐる回っているらしいんですけど、うちの店には滅多に入ってこないんです」
と言いながらバーコードを読み取るのだった。

そんな夢を見た。