第二百九十七夜

 

文化部の同級生数人で、中間試験を終えた開放感を味わいながら駅前の大通りまで歩いていた。テスト前二週間の部活動停止期間がようやく開けて、その間に積もった他愛もない話をするために歩調を緩めて歩いていると秋の陽は釣瓶落としに暮れ、辺りはすっかり暗くなってしまっている。

川岸の駅から伸びる大通りの明かりが見えた辺りで、誰かが、
「ねぇ、こんな道あったっけ?」
と、僅かな街灯に照らされた暗い裏道の右手を指差す。振り向けば、マンションの小さな駐車場と一軒家のブロック塀の隙間に、自転車がすれ違えるかどうかという細い上り坂が見える。
「そりゃあったさ。何処に続いてるかは知らないけど」
と誰かが言う。毎日、登下校で二度も通るのだから、存在くらいは知っていて当然だと他に二人が賛同する。ところが、
「いや、こんな道に見覚えは無い。いくら暗くたって見間違えたりはしない。そもそも駐車場には緑色の金網を貼った柵があったはずだ。それとブロック塀がびったりくっついていて、間に通れる隙間なんて無かった」
という反論が出され、
「そうそう、そうだった」
と、言い出しっぺを含む四人が賛同する。私もそのうちの一人で、それは金網の柵とブロック塀の僅かな隙間を器用に縫って、野良らしき虎猫が歩いているのを見た覚えがあったからだ。

ならばその写真でも撮っていないかと証拠の提出を求められるが、忙しい登校中の出来事で、のんびりとスマート・フォンを構える暇はなかったから、残念ながら要求には答えられない。
「それなら、今ここで全員がこの道を写真に撮って、明日の朝ここに集まろう」
と誰かが提案しカシャリとシャッター音を鳴らすと、皆がそれに続いて暗く伸びる坂道を写真に収める。

元々あった派の男子が、少し坂を登ってみようと提案する。
「神社でもあったら面白くない?」
「肝試しみたいでちょっと……」
「だから楽しいんじゃない」
「俺はちょっと興味ある」。
他の部活動帰りの生徒達が不審な顔をして通り過ぎる横でそんな遣り取りをした結果、元からあった派の二人と始めて見た派の男女二人ずつ四人が、きゃあきゃあとはしゃぎながら闇の坂道へ飲まれて行く。

その背中を見ながら、元からあった派のうち一人だけ同行しなかった男子に理由を訊ねると、
「もともとあった道である以上は不思議でもなんでもないんだから、肝試しにならないもの」
と言い放ち、
「待っていろとも言われていないし、先に帰ろうか」
と提案するので、三人で駅へ向かうことにする。宵の口とはいえ風は冷たく、裾や襟足から肌へ吹き込んで身震いする。
「あいつらどこまで行く気なんだろうな」。
そんな言葉に思わず坂の方を振り向きそうになったが、嫌な予感に慌てて前を向き直した。

そんな夢を見た。

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