第五百七十六夜

 

どうにかこうにか期末試験を乗り越えて、後は全校集会を乗り越えれば夏休み、全校生徒が体育館に集まって整列した。全国的に疫病騒ぎがぶり返しつつある中、特に有名な観光地のあるでもない我が地域では全国的に小康状態にあった頃から新規感染者数はほぼ横這いのままだ。これなら全校集会も可能だろうと入学以来初めての全校集会が開かれたのだそうだ。

中学に入学して以来これまで、校内放送でしか聞いたことのなかった校長先生の訓話を聞いているうち、二年のブランクで体が鈍っていたのかどうか、急に悪寒と吐き気がこみ上げてきた。

不調が顔に出ていたのか、列の隣の友人が手を挙げて教師を呼び、呼ばれた教師も体調を問うより先に「保健室へ」と小声で言い、列の最後尾までこちらの手を引いて歩く。

周囲の視線が集まり、仲の良い級友たちから体調を心配する声が掛けられるが、作り笑いを返す余裕もなく、
「うん、ちょっと」
と、僅かに顔を上げて返すのが精一杯だ。

そのまま体育館を出て渡り廊下を超えて校舎に入ると、いよいよ足元が覚束なくなる。付き添いの先生に半ば抱えられるように保健室の前まで辿り着くと、ドアのガラス窓から一面真っ白な保健室が見える。その二つ並んだベッドの上に、セーラー服を着た女の子が座っている。先客だろうか。スカートの下で揃えられた膝の上には黒いセーラー服の袖から伸びた手が重ねられ、その白さが目を引く。

自分もあんな風に色が白ければと思ったそのとき、「先にトイレへ行ったほうがいいんじゃない?」
と提案して、返事も聞かずに保健室を通り過ぎ、職員室前の教職員用トイレへと私を引っ張る。

便座の蓋に腰を下ろして背中を擦ってもらうと途端に吐き気が収まって、脂汗を吸った服が体温を奪う冷えこそあれ、悪寒も殆どしなくなる。心配そうに背中を擦り続けてくれている先生に御礼を言いもう大丈夫と伝えると、今度は先生の顔色が妙に青褪めて見える。

どうしたのかと尋ねると、
「保健室に、変な女の子が居たでしょう?」
と固唾の絡んだ掠れ声で尋ね返される。確かに女の子は座っていたが、何処か変だったろうかと答えると、
「夏休み前に冬服で来る子なんて……」
と、先生は声を震わせた。

そんな夢を見た。

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