第百二十二夜   トレイに載せたグラス二つを窓際の少女達へ運ぶと、 「ね、新しい都市伝説、仕入れちゃった!」 と聞こえてきた。 私のバイト先であるこの店は大手チェーンに比べて値段が安く、彼女達のような学生服姿の […]
第百二十一夜   週末というのにモヤモヤと気の晴れぬためか、洗濯を済ませたあと買い物を車に積んでの帰り道、ふとハンドルを切って山へ向かうことにした。ラジオのDJが庭の梅にメジロが来たと話すのを聴いて羨ましく思っ […]
第百十七夜   昼食を終えてデスクに戻り、午後の始業まで目を休めようと目薬を注して目頭を押さえていると、 「先輩、ちょっと相談があるんですけど」 と声を掛けられた。目を閉じたまま、 「え、今?」 と返すと、 「 […]
第百十六夜   何年か振りに、この地域にしては大雪と呼べるような雪の降った晩、寝室の窓を叩く音がしてカーテンを開くと、級友のガキ大将が満面の笑みをたたえて窓の外に浮いていた。正確には雨樋を伝い登り、それにしがみ […]
第百十五夜   スキー旅行に来た夜のことである。日暮れからひどく吹雪いて、洒落た丸太小屋の軒をかすめる風の音の凄まじさに、昼間滑り疲れた身体を抱えながらなかなか寝付かれずに便所へ立った。 用を足して部屋に戻ると […]
第百十四夜   ハイキングに出掛けて見付けた山小屋風の喫茶店で、静かに珈琲を楽しんでいると、ピィピィと力強い鳥の声が窓外から聞こえた。 それに釣られて庭に目を向けると、冬の陽のよく当たる斜面に黄色い実を付けた常 […]
第百十二夜   積まれた雪の融け残る住宅街の夜道を歩いていると、 「すいません、はい、どうも、ええ」 と、男の大きな声が響いた。相手の声の聞こえないことから推して、携帯電話で話しているのだろう。 振り向いても人 […]
第百十一夜   雪のちらつくホームの端で、直ぐ後ろから流れてくる煙草の煙に目を半ば閉じながら最終電車を待っている。鉄道やバスといった交通機関が禁煙でない時代があったのだ。最寄り駅の改札へ最も近いのが末尾の車両の […]
第百一夜   何やら嗅ぎ慣れぬ甘い香りに意識が覚醒した。目を開くより先に、糊の利いたシーツが地肌に触れる感触でそこがホテルの一室であることを思い出す。 目を開けて上体を起こすと、掛け布団がずれて横に眠る女の肩口 […]
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