第九十一夜   ごつりと頭を打って気が付くと、黒い床の上へ頭を打ったらしい。辺り一面にぎっしりとひしめく仲間達も皆同じようで、気の付いたものは辺りをぐるぐる見回して首をかしげている。 ここは何処だ。 回りの仲間 […]
第八十八夜   稲刈りを終えても、冬支度に追われる村の秋は忙しい。それでも「雨の日くらいは相手をしろ」と庄屋様に呼ばれ、濡れ縁に腰掛けて碁を打っていた。なにしろ立派な屋敷で軒が深い作りなものだから、少々の秋湿り […]
第八十七夜   友人の別荘をお暇して暗い山道を下っていると、頭の上で大きく両手を振るヘルメット姿の人影をヘッド・ライトが照らし出した。細いジーンズに包まれた腰回りからして、どうも女性のようだ。 慌ててスピードを […]
第八十六夜   秋の夜道は街灯に照らされてなお足元が暗く、それでも重くダブつくスカートは自転車を飛ばすのには向いていない。ズボンを穿いてくればよかったと後悔する。塾で居残り勉強を命じられ帰宅が遅くなってしまった […]
第八十三夜   終電を最寄り駅で降りると、疲れきった頭と身体は習慣に引き摺られて半ば無意識に改札を出て家路を辿る。 駅前のロータリーを抜けて交差点を斜めに渡ると、そのまま公園へ入る。律儀に公園の周囲を周るより中 […]
第七十八夜   強くはない酒を無理に呑み、終電でようやく帰宅した。これも仕事のうちとはいえ、心にも身体にも負担は大きい。自分がまだ若いと思えるうちに、他の仕事に回らなければ。 そんなことを考えながら、兎に角風呂 […]
第七十七夜   柿や栗といった秋の味覚と引き換えに山の手入れを手伝ってほしいと友人に頼まれて引き受けた。早朝迎えに来た車に揺られて一時間、彼の実家で軽トラックに乗り換えて十五分ほど経ったろうか、山の中腹にぽっか […]
第七十六夜   「いやね、働いてる身としてはサ、実際ただの職場だから」。 わざとらしく眉を顰め、いかにも飽き飽きしているという様子で男が言う。酒の席で彼の職業を初めて聞いた者は必ず、何か不思議な体験をしたことは […]
第七十五夜   旅先の山中に人気のない神社を見付け参拝を済ませると、奥の蔵の石段の陽溜まりに腹を出して眠る一匹の三毛猫がいるのに気が付いた。 リュック・サックからカメラを取り出してその前にしゃがみ込むと、彼女は […]
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