第七百三十夜
そろそろ年賀状を用意しなければと思っていたところへ、もう十数年は会っていない古い友人から一枚の葉書が届いた。盆に親族が立て続けに亡くなったため、今年の年賀状は送らないと言う挨拶だった。
その文面に違和感を覚え、夕食後の互いに暇だろう時間を狙って数年ぶりに電話を掛けてみる。首尾よく捕まえて話を聞いてみると初めは身内の恥だからと嫌がったが、彼女としても誰かに話したかったのだろう、むしろ詳細に事情を説明してくれた。
今年の盆に夫の実家へ家族で帰省した。夫はその地域の名家の次男坊で、法要に三十人近くが集まる大家族だという。ただ夫の祖父は早逝しているらしく、家の中の政治も色々と複雑だという。ここ数年は疫病騒ぎで帰省していなかったが、今年は夫の大叔父が亡くなったこともあって帰省することとなった。
その家を取り仕切っているのが夫の祖母で、疫病騒ぎもあって三年会わないうちに成人した息子を見るなり祖父にそっくりだと言ってはしゃぎ出した。荷物も片付けぬうちに古く立派な箪笥から古めかしい着物を取り出して息子にそれを着付けると、見合いで初めて会ったときを思い出すと言って大喜びし、写真を撮りたいから庭の池の脇に待っていてほしいと言って下駄を出し、奥の部屋へ姿を消す。どうやら自分もおめかしをしてくるようだと、戸惑う息子を夫と笑いながら眺める。
と、縁側から悲鳴とも罵声ともつかぬ叫びが上がった。祖父の代の分家筋の長男が、息子を指差して、震える声で分けのわからぬ叫びを上げている。歳のせいも、強い訛りのせいも、正体を失っていることもあって、本当に何を言っているのかわからなかった。
彼はひとしきり喚き散らすと、彼の息子達の静止も聞かずに自ら車を運転して本家を出て行ってしまった。
「で、夕方になってその家の人が電話を掛けても繋がらないからって探してみたら、自宅で首を吊っていたんですって」
一体何があってそんなことになったのか気にはなるが、次男の嫁としては余計なことに首を突っ込んで得になることもあるまいと思って詳しいことは聞けなかったと言う。ただ、
「早逝したという夫の祖父の死に、その男が何か関係していたのだろうことは確実だと思うのよね」
と、彼女は井戸に向かって叫ぶ床屋のように饒舌に語ってくれた。
そんな夢を見た。
No responses yet